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2024.07.01

薬剤がくも膜下出血におよぼす影響とは【kencom監修医・最新研究レビュー】

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くも膜下出血といえば、動脈瘤が破裂し、激しい頭痛で最悪の場合、命に関わる怖い疾患ですが、薬剤がくも膜下出血に及ぼす影響はあるのでしょうか。

今回ご紹介するのは、Neurology誌に2024年6月25日付で掲載された、くも膜下出血のリスクと薬剤の使用との関連についての論文です。

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脳動脈瘤の破裂予防が課題

くも膜下出血は脳出血の1つで、その多くは脳の血管に出来た瘤(脳動脈瘤)の破裂により起こります。従って、検診などで未破裂の脳動脈瘤が発見された場合、それを血管内治療や手術によって、治療するべきかどうかが問題となります。

治療には麻痺などの合併症のリスクがあり、脳動脈瘤は未破裂のまま経過することも多いので、治療の可否はなかなか判断が難しく、破裂のリスクが低いことが想定される動脈瘤は、外科的治療はせずに経過観察されることも多いのが実際です。現行血圧のコントロール以外に、明確にその有効性の確認された、脳動脈瘤の破裂を予防する薬剤はありませんが、仮にある薬の使用でそのリスクを減らせるとすれば、それに越したことはありません。

脳動脈瘤破裂患者の服薬データを分析

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今回の研究では、イギリスのウェールズ地方における、大規模な医療データを活用して、脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血の事例と、その時に使用されていた薬剤との関連を、比較検証しています。脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血の事例、トータル4879例を、43911例のコントロールと比較して解析したところ、降圧剤のリシノプリルとアムロジピンを、3か月以内に使用していた場合、リシノプリルで37%(95%CI:0.44から0.90)、アムロジピンで18%(95%CI:0.65から1.04)と、くも膜下出血のリスクが低下する傾向を示しましたが、3か月から12か月前に使用していた場合には、リシノプリルで30%(95%CI:0.61から2.78)、アムロジピンで61%(95%CI:1.04から2.48)、と今度は逆に出血のリスクは増加する傾向を示しました。

これ以外に3か月以内の使用により、コレステロール降下剤のシンバスタチンでは、22%(95%CI:0.64から0.96)、糖尿病治療薬のメトホルミンでは、42%(95%CI:0.43から0.78)、前立腺肥大症の治療薬タムスロシンでは、45%(95%CI:0.32から0.93)、くも膜下出血のリスクがそれぞれ有意に低下していました。

反対に3か月以内の使用により、抗凝固剤のワルファリンで35%(95%CI:1.02から1.79)、抗うつ剤のヴェンラファキシンで67%(95%CI:1.01から2.75)、抗精神病薬のプロクロルペラジンで2.15倍(95%CI:1.45から3.18)、アセトアミノフェンとリン酸コデインの合剤で31%(95%CI:1.10から1.56)、くも膜下出血のリスクが、それぞれ有意に増加していました。

薬剤によってリスクの傾向が分別される結果に

このように多くの一般的に使用されている薬剤で、くも膜下出血のリスクの増加と低下が認められました。抗うつ剤や抗精神病薬のリスク増加は、原疾患との関連も想定されるため、必ずしも薬の影響と断定は出来ないと思います。抗凝固剤や消炎鎮痛剤については、凝固系に影響を与える薬剤なので、リスク増加は想定範囲内である、と言って良いかも知れません。降圧剤の影響が使用期間で分かれたことは意外な結果ですが、血圧の安定性が重要ということかも知れません。この点は検証が必要であるように思います。シンバスタチンやメトホルミンは、抗酸化作用や抗炎症作用などが報告されていて、今回の検証でもリスク低下が認められたことは、こうした薬剤がトータルに身体のバランスを改善する、というこれまでの知見を補強するものだと思います。

薬剤はリスクに影響される可能性

いずれにしても多くの薬剤で、くも膜下出血のリスクに影響が見られた、という結果は非常に興味深く、今後予防のための薬物治療の可能性について、更なる検証を期待したいと思います。

記事情報

引用・参考文献

著者/監修医プロフィール

石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。

略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医

発表論文
・Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
・Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
・Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36
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