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2021.01.02

新型コロナウイルス感染症における嗅覚障害の判定法【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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新型コロナに感染すると、味覚障害や嗅覚障害が起きるという体験談をよく聞きます。感染者はどれくらいの割合で、味覚障害や嗅覚障害を起こすのでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、査読前の論文を公開しているmedRxiv誌に、2020年7月6日ウェブ掲載された、新型コロナウイルス感染症における嗅覚障害の意義を、その測定法により検証した論文です。

▼石原先生のブログはこちら

嗅覚障害は新型コロナの特徴的症状

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の、特徴的な症状の1つとして、嗅覚障害と味覚障害があります。

これは典型的には、急に殆どの嗅覚と味覚がなくなるというかなり特異なもので、もちろん他の感冒でも鼻閉などに伴って、同様の症状が起こることがありますが、それはもっと軽微なもので、明確に別の所見として区別の出来るものです。

嗅覚障害と味覚障害とが並列に論じられることもありますが、これまでの知見により、おそらく嗅覚障害の方が本質的な所見で、味覚障害は嗅覚障害に伴って起こる、自覚障害に過ぎないと思われます。

この症状が新型コロナウイルス感染症で生じる頻度は、報告によりかなりのばらつきがあります。それも5%~98%というとても同じ所見の解析とは思えないばらつきです。

その大きな要因は、嗅覚障害の診断が臭いの試薬などを用いて客観的に行われている場合と、患者さんの聞き取りにより、主観的に行われている場合とが混在している点にあるように思われます。

診断方法によって結果に大きな差が

今回の研究では、これまでの34の臨床データをまとめて解析するメタ解析の手法で、新型コロナウイルス感染症における嗅覚障害の頻度を、その検出法により比較検証しています。

その結果、診察により客観的に診断された事例においては、新型コロナウイルス感染症における嗅覚障害の頻度は、77%(95%CI: 61.4から89.2)であったのに対して、患者の聞き取りによる診断では45%(95%CI: 31.1から58.5)と大きな差が認められました。

言われているより高い頻度で起きている可能性も

このように、実際には従来言われていたより新型コロナウイルス感染症における嗅覚障害の頻度は高く、かなり特異的な所見として、その成因を含めて検証する必要がありそうです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36