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2021.10.21

まるでテレビドラマ!? 脳梗塞専用救急車活用の有効性とは【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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脳梗塞の治療は、発症後一刻も早く開始することで、治る確率が高くなります。では、迅速に治療を進めるためにはどうすればいいのでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、the New England Journal of Medicine誌の、2021年9月9日号に掲載された、脳梗塞の治療迅速化の試みの効果についての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

脳梗塞治療を一刻も早くスタートするには

脳梗塞の治療に大きな進歩となったのは、日本では2005年から保険適応された、組織プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA)の使用です。

この注射の血栓溶解剤は、脳梗塞(虚血性梗塞)の発症早期に使用することにより詰まった血栓を溶解して、血流を再開する効果があります。

ただ、それは同時に出血のリスクを増すことでもあり、また脳梗塞による阻血から一定時間が過ぎると、その有効性より出血などのリスクの方が、より高くなってしまうことから、発売当初は病気の発症から3時間以内、現時点でも4時間半以内にその使用が行なわれる必要があります。

しかし、いつ何処で起こるか分からない脳梗塞です。

たとえば自宅で急に言葉が出ない、手足が動かない、などの症状が出現したとして、それから救急車を呼び、救急車が来て、t-PA治療が可能な病院に搬送、病院に着いてから、迅速に頭部CT検査や血液検査などを施行し、t-PA治療の適応であることを確認して、治療に至るまでの時間が4時間半以内というのは、かなり難易度の高いハードルであることは容易に想像が付きます。

それでは、より迅速に脳梗塞の患者さんのt-PA治療を可能とするには、どうすれば良いのでしょうか?

脳梗塞専用救急車で、搬送と同時に検査と治療を開始

その方法の1つとして期待されているのが、脳梗塞専用の救急車を作ってそこにCT検査や血液検査など、t-PA治療の適応判定に必要な検査機器を附属させ、専門の医療スタッフが乗り込んで、患者さんを搬送しながら、同時に検査と治療を開始しよう、というような試みです。

既に欧米で複数の臨床研究が行なわれていて、今回の報告はアメリカの多施設での試験結果をまとめたものです。

全体で脳梗塞発症早期の1515名が登録され、そのうちの1047名がt-PA治療を施行されました。このうち617名は脳梗塞専用救急車が活用され、430名は通常の救急車で病院に運ばれて治療を受けました。

その結果、脳梗塞症状が出現してから治療開始までの中間値は、通常の救急車による搬送では108分であったのに対して、脳梗塞専用救急車を活用した場合には72分に短縮しました。通常の救急車の搬送では治療可能であったのは79.5%であったのに対して、脳梗塞専用救急車では97.1%の患者さんが治療を施行されました。

発症後3ヶ月の時点で後遺症がなかった患者さんの比率は、通常搬送が44.4%に対して脳梗塞専用救急車では55.0%で、脳梗塞専用救急車の活用により、24%の患者さんが後遺症なく治癒される、という結果が得られました。

治療開始が早まることで脳梗塞の予後が改善

このように、1分でも早く治療を開始することにより、間違いなく脳梗塞の予後の改善が得られています。今後はその場で診断と治療が可能な救急車両の活用が、最近話題のドラマではありませんが、救急医療の目玉として議論されるようになるかも知れません。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36