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2019.05.08

医学的に見て健康にいい油とは?【KenCoM監修医・最新研究レビュー】

KenCoM監修医:石原藤樹先生

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動物油よりも植物油のほうがヘルシーというイメージはありますが、それは医学的に正しい事実なのでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにKenCoM監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、KenCoM読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、2019年のCirculation Research誌に掲載された、種別毎の脂肪の摂取量と生命予後との関連を検証した、大規模な疫学データによる論文です。

▼石原先生のブログはこちら

どんな種類の油が健康にいい?

油は、大きく分けて飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の2種類がある

動物性の油よりも、植物性の油の方が健康に良い、というのはしばしば言われて来たことです。
飽和脂肪酸よりも不飽和脂肪酸が健康に良い、というような言い方も、しばしばされてきました。

テレビなどの健康情報では、サバやサンマに含まれる脂肪酸が、ダイエットに良いという話題も盛り上がっているようです。
脂肪酸というのは、身体の中の油の総称で、タンパク質のように窒素は含まず、炭素と水素、酸素だけからなる、シンプルな構造物です。
リン脂質や糖脂質、コレステロールやステロイドのような、脂肪酸から由来する物質も多く、この中には窒素を含むものもあります。

その大元である脂肪酸は、二重結合のない飽和脂肪酸と、二重結合のある不飽和脂肪酸に分かれます。

原子は他と繋がる手を、決まった数だけ持っていて、その手がそれぞれ別のものと繋がっているのが、飽和で、2つの手が同じものと繋がっているのが、不飽和ということになります。

分子量の大きい「不飽和脂肪酸」は、その二重結合の位置が端から3番目のものと、6番目のものとに分かれます。
3番目のものをn-3脂肪酸とか、ω-3系多価不飽和脂肪酸、などと呼び、EPAやDHA、α-リノレン酸などはその代表です。
一方で6番目のものの代表は、リノール酸やアラキドン酸で、これをおなじように、n-6脂肪酸やω-6系多価不飽和脂肪酸、などと呼んでいます。

動物の脂肪は飽和脂肪酸、魚油や植物油は不飽和脂肪酸が多い

動物性の脂肪の多くは、飽和脂肪酸です。ラードやバターなどはその代表です。

魚や植物油を多く摂るような生活習慣により、心血管疾患のリスクが減少する、というような疫学データは多くあり、その原因として注目されているのがω3系脂肪酸です。

これは具体的には、主にサバやサンマなどの青身魚の脂に含まれる、EPA(エイコサペンタエン酸)、DPA(ドコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)、そしてエゴマやアブラナ、ダイズなどの油に含まれる、植物性油脂のαリノレン酸です。

現行の心血管疾患の予防のためにガイドラインにおいては、飽和脂肪酸と主に油脂により生じるトランス脂肪酸を減らして、その変わりに不飽和脂肪酸を増やすように、という大雑把な指針が示されていますが、実際には疫学研究の結果もまちまちで、メタ解析の論文でも飽和脂肪酸の悪影響が、それほど明確には示されていません。
また、心血管疾患以外の死亡リスクについては、殆ど検証はされていないのが実際です。

摂取している油の種類と死亡リスクの関係を検証

総死亡リスクは飽和脂肪酸の摂取で上昇し、魚介由来ω3系多価不飽和酸で低下

そこで今回の研究では、アメリカの大規模な疫学データを活用して、摂取している脂肪の種類毎の量と、疾患毎の死亡リスクとの関連を検証しています。

登録時に50から71歳の521120名を、16年間に渡り観察した結果を解析し、飽和脂肪酸、トランス脂肪酸、単価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸、動物性単価不飽和脂肪酸、植物性単価f飽和脂肪酸、魚介由来ω3系多価不飽和酸、αリノレン酸、リノール酸、アラキドン酸、の個別の摂取量を5分割して比較しています。

その結果、総死亡のリスクは、いずれも最も摂取量が少ない場合との比較で最も多い場合で、飽和脂肪酸が1.29倍(95%CI: 1.25から1.33)、トランス脂肪酸が1.03倍(95%CI: 1.00から1.05)、αリノレン酸が1.06倍(95%CI: 1.03から1.09)、アラキドン酸が1.10倍(95%CI: 1.08から1.13)、それぞれ有意に増加していました。

一方で動物由来単価不飽和脂肪酸で9%(95%CI: 1.06 から1.13)、植物由来単価f飽和脂肪酸で6%(95%CI: 0.91 から0.97)、多価不飽和脂肪酸で7%(95%CI: 0.91 から0.95)、魚介由来ω3系多価不飽和脂肪酸で8%(95%CI: 0.90 から0.94)とそれぞれ有意に低下していました。

心血管疾患の死亡リスクも魚油摂取が多いほど低下

心血管疾患による死亡リスクは、飽和脂肪酸、トランス脂肪酸、アラキドン酸の摂取量が多いほど増加し、魚介由来ω3系多価不飽和脂肪酸が多いほど低下していました。

総カロリーの5%を飽和脂肪酸から植物由来単価不飽和脂肪酸に置換すると、総死亡のリスクを15%、心血管疾患による死亡リスクを10%、癌による死亡リスクを11%、呼吸器疾患による死亡リスクを30%、それぞれ有意に低下させていました。

また、総カロリーの2%を飽和脂肪酸からリノール酸に置換すると、総死亡のリスクを8%、心血管疾患による死亡リスクを6%、癌による死亡リスクを8%、糖尿病による死亡リスクを9%、これもそれぞれ有意に低下させていました。

健康のためには、動物油脂を魚油や植物油に置き換えて

このように、飽和脂肪酸、トランス脂肪酸、動物由来単価不飽和和脂肪酸、αリノレン酸、アラキドン酸は、その摂取量が多いほど死亡リスクの増加に繋がり、魚介由来ω3系多価不飽和脂肪酸の摂取量が多いことと、飽和脂肪酸を植物由来単価不飽和脂肪酸とリノール酸に置換することは、総死亡および一部の疾患の死亡リスクを低下させていました。

これはほぼ従来言われていたことの確認、という意味合いの結果ですが、これだけ大規模で長期間の調査はこれまでに例がなく、今後の栄養指導の議論のたたき台となるものだと思います。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36