2024.03.29
単純ヘルペスウイルス感染症にかかると認知症リスクが上がる?【kencom監修医・最新研究レビュー】
認知症になるきっかけは様々ですが、ウイルス感染が原因で発症する事例もよくあります。
今回ご紹介するのは、Journal of Alzheimer's Disease誌に2024年2月付で掲載された、非常に一般的なウイルスによる感染と、認知症リスクとの関連についての論文です。(※1)
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認知症の原因の1つはウイルス感染?
認知症のメカニズムには不明の点も多く、ウイルス感染がそのリスクになるという報告も複数あります。その中で報告の多いものの1つが、単純ヘルペスウイルスの感染です。
たとえば、2008年の論文では、急性の感染を示す単純ヘルペスウイルスのIgM抗体が陽性であると、アルツハイマー病のリスクが2.55倍増加した、とするデータが報告されています。(※2)また、2015年の別の論文では、今度はIgG抗体が陽性であると、アルツハイマー病のリスクが1.636倍増加した、とするデータ報告されています。(※3)
ただ、2008年の論文ではIgG抗体との関連はなかった、という結果になっていますから、データが必ずしも一致しているという訳ではありません。
単純ヘルペスウイルス感染歴と認知症発症の関連を検証
今回の研究はスウェーデンにおいて、70歳で認知症の兆候のないトータル1002名の一般住民を、15年間という長期に渡り観察したものですが、単純ヘルペスウイルスとサイトメガロウイルスの血清抗体価と、認知症の発症との関連を検証しているものです。
サイトメガロウイルスというのはヘルペスウイルスの一種で、抗体の陽性率も高いため、一緒に検証されています。抗体はIgM抗体とIgG抗体が測定されていますが、感染の急性期のみに上昇するのがIgM抗体で、IgG抗体は感染後しばらくして上昇すると、長期に渡り陽性となるので、その感染の既往を表しています。
その結果、累積のアルツハイマー病の罹患率は4%で、全ての認知症の罹患率は7%でした。全体の82%の対象者は単純ヘルペスウイルスのIgG抗体陽性で、この抗体の陽性者は陰性者と比較して、観察期間中に認知症を発症するリスクが、2.26倍(95%CI:1.08から4.72)有意に増加していました。
アルツハイマー病単独のリスクも、2.24倍(95%CI:0.79から6.33)増加する傾向は示しましたが、統計的に有意ではありませんでした。
一方で単純ヘルペスのIgM抗体とサイトメガロウイルスIgG抗体の陽性率、単純ヘルペスウイルス感染症の治療の有無、単純ヘルペスとサイトメガロウイルスの抗体価については、認知症のリスクと明確な関連を示していませんでした。
認知症と単純ヘルペスの既往には一定の関連がありそう
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このように、今回の検証においては、トータルな認知症リスクと、単純ヘルペスの抗体陽性(その既往あり)との間には、一定の関連が認められた一方で、アルツハイマー病との間では、有意な関連は認められませんでした。
この結果はかなり微妙なもので、データを見るとその信頼区間は非常に大きく、認知症とアルツハイマー病との間に、それほどの差はないようにも思えます。
単純ヘルペス感染症の既往と、その後の認知症の発症との間には、一定の関連のあること自体は事実と言って良さそうですが、その解釈やアルツハイマー病との関連などについては、まだ今後の検証が必要であるようです。
記事情報
引用・参考文献
著者/監修医プロフィール
石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
発表論文
・Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
・Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
・Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36
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