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2021.06.26

もう繰り返さない!口唇ヘルペスと付き合いつづける秘訣【口唇ヘルペス・後編】

kencom公式ライター:森下千佳

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忙しい、仕事で寝不足、風邪を引いて熱が出た。そんな、辛い時に限って繰り返す「口唇ヘルペス」。
ウイルスは、⽣涯にわたって体内に潜伏するため、排除することは出来ませんが、適切な治療や生活の工夫をすることで、予防したり症状を軽くしたりすることが出来ます。
口唇ヘルペスの治療と予防のコツを、国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院 皮膚科診療科長の玉木 毅先生に聞きました。

■前編はこちらから

口唇ヘルペス治療の基本はウイルス増殖の抑制で

基本は「飲み薬」による治療

口唇ヘルペスの治療法には、飲み薬・塗り薬・点滴があります。

口唇ヘルペスの治療は、広範囲に広がってしまった場合や、ひどい歯肉口内炎になってしまったなどの重症の場合などを除いては、飲み薬(抗ウイルス薬)での治療が基本となります。
水ぶくれが出来てから受診した場合は、ウイルスの増殖を抑えるファムシクロビルやバラシクロビルなどの抗ヘルペスウイルス薬を、5日分処方されることが一般的です。
飲み始めて4〜5日後にはかさぶたになって治っていきます。

ウイルスの増殖を抑えるためには、なるべく早く飲み始めることが⼤切です。

塗り薬や点滴をする場合も

基本的には飲み薬を飲んでいれば塗り薬を塗らなくても治ります。
特に痛みや違和感、見た目が気になる方には、抗ウイルス薬の塗り薬を処方しますが、塗り薬は皮膚の表面に出てきたヘルペスウイルスにしか効果はありません。
軽症の場合は、抗ヘルペスウイルス薬のアシクロビルやビダラビンを塗布するのみの場合もあります。

点滴は、ヘルペスウイルスが全身に広がって発熱した場合や、ただれ・痛みが激しい重症の場合など、すぐに効果が出て欲しいときに使用します。この場合は入院が必要です。

最新手法から普遍の方法まで「口唇ヘルペス」予防法

ヘルペスウイルスが予防できる治療法「PIT」とは

再発で悩んでいる方には、「再発に備える治療」という選択肢が取れるようになりました。
2019年2月に公的医療保険の適用になったこともあり、一般的な治療になりつつあります。再発に悩む患者の多くは、水ぶくれなどの皮膚の症状が出る前に、かゆみや、ピリピリ、チクチクといった、独特の感覚(前駆症状)に気がつきます。
その前駆症状を察知した時点で、予防のために薬を使い始めるという治療です。
「PIT」(Patient Initiated Therapy)と呼ばれています。

口唇ヘルペスを、年3回以上繰り返す患者が対象です。
唇に違和感を覚えたらすぐに、あらかじめ医師から処方された抗ウイルス薬を服用します。1回目の服用から12時間後に、2回目の薬を飲めば完了です。

ウイルスの量は、発症から数日でピークを迎えます。前駆症状を察知できる人であれば、ウイルスが激増する前に薬の服用ができるので、遅れた患者と比べ、かなり軽い症状で治めることができます。忙しくてすぐに病院を受診できない方や、頻繁に繰り返してしまう方には手元に薬があると安心ですし、メリットが大きいと思います。再発でお悩みの方は、お近くの皮膚科に相談してみましょう。

周りにうつさないための対策は?

一般的な予防法・感染防止法としては、「接触感染」と「物を介した感染」をしないように意識することが大切です。
すでに罹患しており、症状が出ている方は、頬ずりやキスといった患部を直接接触させるような行為は避けましょう。マスクの使⽤も感染予防に効果的です。
特に、⾚ちゃんとの接触は出来るだけ避けましょう。
⾚ちゃんにうつると、重い症状を起こす恐れがあります。どうしても⾚ちゃんのお世話をする時は、⼿をきれいに洗い、マスクを着用して、口うつしなどの行為はしないようにしましょう。

また、症状が出ている方は、周りの人と食器やタオルを共有しないこと。
洗濯は別々にするか、熱湯消毒を行いましょう。
必ず洗剤を使い、流水でよく流すことが大切です。

再発予防には免疫力を下げない生活を

再発予防には「免疫力を下げない生活」を心がける事が大切です。
栄養のバランスがとれた⾷事と、規則正しい生活、⼗分な睡眠、適度な運動により、出来るだけ疲れやストレスを溜めないようにしましょう。

また、肌荒れやアトピーなど、バリア機能の弱いところにウイルスが広がってしまうこともあるので、しっかりとスキンケアをして、皮膚が正常な機能を保てるように留意する事も大切です。

紫外線予防はしっかりと

また、紫外線には皮膚の免疫を下げる働きがあるため、ヘルペスを悪化させたり引き起こす原因になります。
紫外線対策はしっかりとしましょう。患者さんの中には、「ゴルフに行くたびに、ヘルペスができる」と仰る方もいる程、紫外線の影響は顕著です。

日焼け止めは一回塗って安心ではなく、2〜3時間おきに、何度も塗り直すことが大切です。
「SPFの効果が高いから」「ウォータープルーフだから汗で落ちない」などと、一度塗った事で安心している方もいるかもしれませんが、塗り直しは必須です。
きちんと、こまめに塗れば、かなり予防効果があります。

朝に塗ったら、お昼ごろにも日焼け止めを塗るようにしましょう。
部屋の中にいても窓から日差しが入る場合は、その間も数時間おきに塗り直しが必要です。

マスクによる肌荒れに気をつけよう!

今、感染対策でマスクをしない日はないと思いますが、マスクの摩擦や刺激、蒸れなどによる肌荒れは、口唇ヘルペスのきっかけになりかねません。
マスクによる肌荒れを起こさないよう、周りに人がいない時には、なるべくマスクを外し、肌を休ませたり、マスクを乾燥させるようにしましょう。

スキンケアをしっかりと心がけ、マスクは毎日交換して清潔に保つ事。
また、ご自身の肌に合う素材のマスクを選ぶ事も大切です。

ヘルペスウイルスを上手にコントロールしよう!

口唇ヘルペスは、よほど免疫力の落ちた人以外は、重症な症状に移行していくという危険性は少ないので、過剰に心配する必要はありません。
しかし、繰り返すと辛いですし、人によってはかなり痛みがあったり、粘膜にできると痛みで食事がしづらいといったこともあるため、なるべく早めに皮膚科に相談してほしいと思います。

昔に比べ、今は適切な治療や生活の工夫で、症状を軽くしたり、治癒までの期間を短くしたりなど、上手に付き合っていくことはできる疾患になっています。
年齢とともに再発頻度が変わってくることがありますので、医師に相談してうまく付き合っていく方法を一緒に見つけてほしいと思います。

玉木 毅(たまき・たけし)先生

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国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院 皮膚科診療科長・皮膚科医長
1987年東京大学医学部医学科卒業後、東京大学医学部皮膚科教室入局。米国サウスカロライナ州立医科大学研究員、東京大学医学部附属病院皮膚科医局長、同分院皮膚科講師などを経て現職。医学博士、日本皮膚科学会東京支部運営委員、東京都皮膚科医会副会長、東京大学非常勤講師。

著者プロフィール

■森下千佳(もりした・ちか)
フリーエディター。お茶の水女子大学理学部卒。テレビ局に入社し、報道部記者として事件・事故を取材。女性ならではの目線で、取材先の言葉や見過ごされがちな出来事を引き出す事を得意とする。退社後、ニューヨークに移住。当時、日本ではなかなか手に入らなかったオーガニック商品を日本に届けるベンチャー企業の立ち上げに関わる。帰国後、子宮頸がん検診の啓発活動を手がける一般社団法人の理事を経て現職。一児の母。