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2023.12.04

塩分を控えると本当に血圧は下がるの?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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高血圧予防には塩分摂取を控えることが有効と言われますが、実際に減塩するとどの程度の血圧が下がるのでしょうか。

今回ご紹介するのは、JAMA誌に2023年11月11日付でウェブ掲載された、血圧に与える塩分制限の影響を検証した論文です。

▼石原先生のブログはこちら

塩分を制限すればどれくらい血圧が下がるのか?

食事の塩分が多いことが、高血圧のリスクとなることは、広く知られている事実です。

そのために、高血圧の患者さんに対しては、食事の塩分制限が指示されます。

しかし、高血圧の患者さんが塩分制限をすることで、どの程度血圧低下が期待出来るのかは、それほど明確にはなっていません。

減塩でどれだけ血圧が低下するのかは、人種差のような個人差が大きいという意見があります。塩分に影響して大きく血圧が変動する人がいる一方で、塩分にあまり影響されない高血圧の患者さんもいる、というような意見です。

ただ、そうした知見の元になっているデータでは、通常高血圧で治療中の患者さんは除外されている、という現実とそぐわない点も認められます。

つまり、減塩の効果については、それほど確実なことが分かっていない、というのが現状なのです。

塩分制限による血圧の推移を検証

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今回の研究はアメリカの複数地域において、50歳から75歳の213名を登録し、通常の特に制限のない食事と、それに2200㎎(食塩換算で5.5グラム)のナトリウムを加えた場合、逆に食事のナトリウム量を500㎎(食塩換算で1.27グラム)まで、厳しく制限した場合とを、同じ人で繰り返して、血圧の推移を比較検証しています。

対象者の内訳は、正常血圧が25%、コントロール良好の高血圧患者が20%、コントロール不良の高血圧患者が31%、未治療の高血圧患者が25%となっています。人種については黒人種が64%で白人種が33%、そのほかが3%となっています。

つまり、アジア人種については情報に乏しいデータです。対象者の食事におけるナトリウム量は、中間値で4.45グラム(食塩換算で11.3グラム)と、塩分過剰の傾向が認められました。

通常の食事での収縮期血圧の中間値は125mmHgで、高塩分食126mmHg、塩分制限食では119mmHgとなっていました。ここで高塩分食から塩分制限食に切り替えた時の、同一の人での血圧低下の平均値は4mmHgで、これは高血圧のコントロールの有無とは明確な関連が認められませんでした。

減塩制限による血圧の低下は、対象者の73.4%で認められました。ここで塩分制限による5mmHg以上の血圧低下が見られる場合を、塩分感受性ありと定義すると、対象者の46%が塩分感受性ありと診断されました。

対象者には一定の血圧降下作用が得られた

今回の検証では、高血圧の治療の有無やコントロール状態に関わらず、減塩による一定の血圧降下作用が確認されました。

ただ、その有効性には個人差があり、体質的な要素によりかなり影響されることも確認されました。

今回の研究はアジア人種は殆ど含まれていないので、この結果をそのまま日本人に適応することは出来ません。また今回の研究ではかなり極端な、高塩分食から高度の塩分制限食への変更が行われていて、実際の生活とは異なる状況である点にも注意が必要です。

効果には個人差があることを忘れずに

いずれにしても、減塩には一定の健康効果のあることは間違いがありませんが、その効果にはかなりの個人差があり、全ての方に同じように効果のあるものではない、という点は、改めて確認しておく必要がありそうです。

記事情報

引用・参考文献

著者/監修医プロフィール

石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。

略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医

発表論文
・Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
・Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
・Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36
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