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2019.09.18

アスリートは一般人より長生きできる?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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身体ひとつで多くの人に感動を届けるプロのアスリートは、健康的な生活をしているように見えますが、一方で怪我も多く身体に負担がかかることも多いもの。一般人より長生きできるものなのでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

2019年のJAMA Internal Medicine誌のレターですが、メジャーリーガーの寿命と病気を調べて、一般男性と比較したユニークな研究です。

▼石原先生のブログはこちら

アスリートは一般人より健康か?

プロのスポーツ選手が健康かどうか、というのはよく議論になるところです。

運動は健康習慣の柱の1つであることは間違いがなく、その意味では運動を仕事にしているスポーツ選手は、普通の人より健康的であると言えます。

この場合の健康というのは、生活習慣病にならないということですから、結果として健康長寿になる、ということになります。

その一方でスポーツ選手は体を酷使するので、怪我が多く、むしろそのために、健康を害することが普通の人より多いのでは、という可能性も指摘されています。

仮にこちらの要素の方が大きいとすると、スポーツ選手は却って短命で病気も多い、という可能性もある訳です。

果たしてどちらが正しいのでしょうか?
それは勿論、スポーツの種類やランクによっても、違う事項であると想定されます。

メジャーリーガーの死亡リスク、病気リスク等を調査

今回の研究はアメリカのメジャーリーガーを対象としたもので、歴代の16637名の選手を対象とした、このジャンルでは非常に大規模なものです。

平均的なアメリカ男性とメジャーリーガーを比較したところ、メジャーリーガーの総死亡のリスクは、平均的アメリカ男性と比較して、24%(95%CI; 0.73から0.78)有意に低下していました。

個別の病気による死亡リスクについても、認知症などの神経変性疾患を除いては、一般男性よりメジャーリーガーではリスクが低下していました。

メジャーリーガーとして活躍する期間が長いほど、総死亡のリスクは低下していましたが、肺癌、血液系の癌、そして皮膚癌については、期間が長いほどリスクが増加する傾向を示していました。
これは排気ガスの吸引や、日光を浴びる時間が長いことが、関連している可能性が示唆されますが、明確な原因までは今回の検証からは分かりません。

内野手の死亡リスクは低く、怪我しやすいキャッチャーの死亡リスクは高め

ピッチャーやキャッチャーなどのポジションと、死亡リスクとの関連を見てみると、ピッチャーと比較した時、ショートとセカンドの内野手は、総死亡のリスクが19%(95%CI: 0.72から0.91)、癌による死亡のリスクが22%(95%CI:0.62から0.98)、呼吸器疾患による死亡のリスクが44%(95%CI: 0.37から0.84)、それぞれ有意に低下していました。
また、キャッチャーはピッチャーと比較して、泌尿生殖器系の疾患による死亡リスクが、2.52倍(95%CI:1.19から5.35)有意に増加していました。

このように概ねメジャーリーガーは、そのキャリアが長いほど、多くの病気のリスクが低下しており、長生きである傾向が認められました。
ただ、神経変性疾患に関してはそうした傾向はなく、またキャリアが長いと一部の癌のリスクは増加していました。
ポジション毎の比較では、比較的怪我の少ないポジションである内野手の死亡リスクが低く、骨盤周囲の外傷を受けやすいキャッチャーでは、泌尿生殖系の病気による死亡リスクが、ピッチャーの2倍以上という高値を示していました。

アスリートは健康的ではあるが、怪我や病気のリスクも高い

このように習慣的な運動が生命予後に良いことは、ほぼ間違いがないのですが、ハードな練習や試合を行なうアスリートにおいては、怪我なども多く、ホコリなどの吸引や紫外線の曝露も多いために、病気によっては一般の人よりそのリスクが増加する、ということもあるようです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36