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2023.06.16

糖尿病患者の痛み止め使用は慎重に!ロキソプロフェン等の鎮痛剤が持つ心不全リスク【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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ロキソプロフェンやジクロフェナクなどの非ステロイド系消炎鎮痛剤は、たくさんある痛み止めの中でもよく使われている薬。しかし、副作用があることも知っておく必要があります。

今回ご紹介するのは、Journal of the American College of Cardiology誌に、2023年4月18日付掲載された、消炎鎮痛剤の心不全リスクについての論文です。

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多くの副作用を持つ非ステロイド系消炎鎮痛剤

ロキソプロフェンやジクロフェナクなどの、非ステロイド系消炎鎮痛剤は、手っ取り早く痛みや熱を改善する薬として、広く使用されています。その主な作用は、COXと呼ばれる酵素を阻害することにより、プロスタグランジンの産生を抑制することにあります。

しかし、非ステロイド系消炎鎮痛剤は、多くの副作用や有害事象のある薬としても知られています。現時点で明確なものとしては、急性の腎障害や胃粘膜障害による消化管出血、体液の貯留による心不全リスクの増加、心血管疾患リスクの高い患者さんにおける、心筋梗塞などの発症リスクの増加などがあり、この心血管疾患リスクの増加は、アスピリンなどの抗血小板剤や抗凝固剤の使用時により、より顕著となることが報告されています。

胃粘膜障害については、COX2の選択的阻害剤で減少することが確認されていますが、腎障害や心血管疾患のリスク増加については、それほどの差はないと考えられています。

2型糖尿病の患者さんでは、腎機能低下や糖尿病性心筋症、心不全などを合併しやすいことが知られていて、そのことからは、非ステロイド系消炎鎮痛剤を使用時の有害事象についても、より多いことが想定されます。

しかし、実際には個別のリスクについて、2型糖尿病の患者さんに限ったデータは、それほど多くはありません。

2型糖尿病患者の心不全リスクと消炎鎮痛剤の関連を調査

そこで今回の研究では、国民総背番号制を敷いているデンマークにおいて、2型糖尿病の患者での新規の心不全による入院のリスクと、非ステロイド系消炎鎮痛剤の処方との関連を、比較検証しています。

2型糖尿病の患者、トータル331189名を対象とし、新規の心不全による入院と、その前1年以内の非ステロイド系消炎鎮痛剤の処方との、関連を検証したところ、28日以内の短期の消炎鎮痛剤の使用により、新規の心不全による入院のリスクは43%(95%CI:1.27から1.63)、有意に増加していました。

このリスク増加はサブ解析においては、特に80歳以上の年齢層で78%(95%CI:1.39から2.28)、これまでに非ステロイド系消炎鎮痛剤の使用歴がない場合には、2.71倍(95%CI:1.78から4.23)と、より大きなものとなっていました。

短期間の使用でも心不全リスクは増加

このように特に高齢の患者においては、非ステロイド系消炎鎮痛剤の2型糖尿病患者への使用は、それが短期間のものであっても、心不全による入院のリスクを有意に高めていました。

糖尿病の患者さんへの消炎鎮痛剤の使用は、リスクがあることを念頭において、必要最小限にとどめる必要がありそうです。

記事情報

参考文献

著者/監修医プロフィール

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36