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2024.03.18

食物アレルギーの新治療!注射薬オマリズマブの有効性は?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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特定の食物を食べるとアレルギー症状を起こす食物アレルギーは、食べる楽しみが減るだけでなく、摂取量によっては命に関わることもある怖い病気。

今回ご紹介するのは、the New England Journal of Medicine誌に、2024年2月25日付で掲載された、食物アレルギーに対する生物学的製剤の治療の有効性についての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

食物アレルギーとは?

食物アレルギーは、特定の成分を含む食品を食べた時に、アレルギー反応を起こす病気で、軽ければ口の周りが少し赤くなったり、かゆみが出たりする程度の場合もありますし、アナフィラキシーと言って、血圧低下などを伴う重篤な全身的な症状が出ることもあります。

その反応の強さは、摂取する量によって違いがあり、食べる量が多いほど症状も強くなります。そして、重症のアレルギーがあるほど、ごく少量の摂取でも重い症状が出るのです。

食物アレルギーの治療は、その成分を除去することが、長くスタンダードな治療として行われて来ました。卵のアレルギーがある場合には、卵を一切食べないという治療です。

ただ、患者さんによっては多くの食品に、アレルギー反応を示す場合もあり、全ての食品を除去することは、栄養的にも困難なケースがあります。また、食事は人生の楽しみでもありますから、ある食品を一生食べられないというのは、かなりの犠牲を強いることでもあります。

何か良い治療法は他にないのでしょうか?

主な治療法は経口免疫療法

最近施行されている方法の1つが、経口免疫療法と呼ばれる方法です。これは原因となる成分を、極微量から摂取することを開始して、徐々にその量を増やしてゆく、という治療法です。まず、どのくらいの量で症状が出現するのかを、負荷試験によって確認しておいて、それより少ない量から摂取を開始するのです。

この方法を持続することによって、徐々にアレルギーに対する耐性が獲得され、少しの量なら食べても問題ない状態に、改善する事例が少なからずあることが、多くの研究によって確認されています。最もその有効性が確認されているのは、ピーナツアレルギーで、それ以外にも牛乳や卵など、多くのアレルゲンで同様の試みが行われ、一定の効果が報告されています。

ただ、これで充分かと言うと、そうは言えません。食物アレルギーの原因である食品を、敢えて負荷するのですから、当然体調不良やアナフィラキシーなどのリスクがあります。治療は長期間を要しますし、効果には個人差があって、その食品が食べられるようになるという保証はありません。特に複数の成分に対してのアレルギーがあると、その1つ1つに対して同じことをするのですから、かなりストレスの掛かる治療でもあります。それでは、他に何か良い治療はないのでしょうか?

オマリズマブでIgEを除去する治療法

即時型の食物アレルギーでは、その反応を媒介する物質の主体はIgEという、免疫グロブリンです。その成分に対する特定のIgEが増加していて、それが反応を起こしているのです。それであるなら、そのIgEを除去してしまえば、反応は起こらなくなる理屈です。

IgEに結合する抗体を薬にした、生物学的製剤が既に開発され、重症の気管支喘息や蕁麻疹、花粉症などの、アレルギー症状の改善に使用されています。その代表がオマリズマブ(ゾレア)という注射薬です。ただ、この薬を食物アレルギーに使用した場合の有効性と安全性とは、まだ確立されていません。

オマリズマブ治療の有効性を調査

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そこで今回の臨床研究では、年齢が1から55歳で、100mg以下の負荷で症状の出現するピーナツアレルギーを持ち、それ以外に卵や牛乳など2種類以上のアレルギー(300mg以下の負荷で症状出現)を、併発している食物アレルギー患者、トータル180名をくじ引きで2つの群に分け、一方は抗IgE抗体であるオマリズマブを、2から4週毎に皮下注射することを繰り返し、もう一方は偽の注射を同じように施行して、16から24週の治療を継続。その後にもう一度経口負荷試験を施行して、その結果を治療前と比較しています。解析は1から17歳の177名が最終的には対象となっています。

その結果、ピーナツ蛋白に対する経口負荷試験で、治療後に600mgを負荷しても無症状であった比率は、偽薬では59例中7%に当たる4名であったのに対して、オマリズマブ治療群では118名中67%に当たる79名で、オマリズマブの治療により、食物アレルギーへの耐性が一定レベル獲得されているのが分かります。

ピーナツ以外のアレルギーについてみると、治療後に1000mgを負荷しても症状が出なくなっていたのは、カシューナッツが偽薬群3%に対して治療群41%、牛乳が偽薬群10%に対して治療群66%、卵が偽薬群0%に対して68%、となっていました。つまり、複数の原因による食物アレルギーであっても、オマリズマブの治療を継続することにより、原因食品に対する耐性が獲得され、一定の有効性があることが確認されました。

ただ、より長い治療期間(40から44週)の検討では、有効性が維持されたり、より改善した事例があった一方で、全体の21%においては効果が減弱していました。従って、治療効果は永続的なものではない可能性もあるのです。

今後は経口免疫療法がより安全、効果的である可能性あり

現在今回発表された報告と並行して、経口免疫療法とオマリズマブの治療を併用する試みも行われています。それにより経口免疫療法がより安全に、より効果的に施行可能となる可能性があり、今後のデータの開示に期待をしたいと思います。

記事情報

参考文献

著者/監修医プロフィール

石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。

略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医

発表論文
・Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
・Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
・Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36
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