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2023.09.29

糖尿病治療薬セマグルチド、肥満と心不全を改善する可能性は?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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肥満と心不全には密接な関係があり、心不全患者には肥満を伴っている方が多いのだとか。では、肥満を改善すれば心不全にもいい効果があるのでしょうか。

今回ご紹介するのは、the New England Journal of Medicine誌に、2023年8月25日付で掲載された、肥満を伴う心不全に糖尿病の治療薬を試みる、という臨床試験の報告です。

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糖尿病治療薬が肥満と心不全を改善する?

アメリカにおいては、心機能が一定レベル保たれている心不全患者の多くは、肥満を伴っていると報告されています。この心不全と肥満は無関係ではなく、体重増加による心臓への負荷や、内臓脂肪の増加の心血管系に与える影響などが、密接に関連していると考えられています。

しかし、現行の心不全の治療薬は、利尿剤や血管拡張剤、強心剤など、いずれも肥満の改善とは無関係のものばかりです。

それでは肥満を改善することにより、どの程度心不全は改善するのでしょうか?GLP-1アナログは、インクレチン関連薬と呼ばれる糖尿病治療薬の注射薬ですが、高用量において肥満に有効であることが臨床試験で確認されています。

それでは、このGLP-1アナログの注射薬を、肥満を伴う心不全に使用した場合、どのような効果があるのでしょうか?

GLP-1アナログのセマグルチドが心不全にどう影響するか検証

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今回の研究では、左室機能が一定レベル(駆出率45%以上)保たれている心不全があり、BMI30 以上の肥満のある、トータル529名の患者を、くじ引きで2つの群に分けると、患者本人にも主治医にも分からないように、一方はGLP-1アナログのセマグルチドを、1週間に一回2.4㎎皮下注射して、もう一方は偽の注射薬を同じように使用して、その経過を52週に渡って観察しています。

その結果セマグルチドの使用により、体重は平均で13.3%低下し、それに伴って心不全の身体症状にも改善が認められました。また6分間で歩ける距離を比較すると、治療前後でセマグルチド群では21.5メートル改善していたのに対して、偽注射群では1.2メートルの改善に留まっていて、有意な運動能力の改善が確認されました。

体重減少と心不全改善が認められた

このように、GLP-1アナログの使用により、長期に渡り体重の減少と共に、心不全症状の改善が認められていて、安定した肥満を伴う心不全に対しては、今後有用な治療の選択肢となる可能性がありそうです。

記事情報

引用・参考文献

著者プロフィール

石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36

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