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2019.12.25

ストレス関連疾患とその後の重症感染症リスクの関係とは?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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ストレスが身体に悪影響を及ぼすことは周知の事実ですが、PTSDなどのストレス関連疾患を抱えていると重症感染症のリスクまで高まるのだとか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、2019年のBritish Medical Journal誌に掲載された、ストレス関連疾患と感染症との関連についての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

ストレスと感染症に関係はあるのか

現代はストレス社会とも言われるように、多くの精神的ダメージに結び付くストレスが蔓延しています。

ストレス関連疾患というのは、こうしたストレスに伴った病気のことで、心的外傷後ストレス障害(PTSD)や急性ストレス障害、適応障害などが含まれています。

PTSDの後には、免疫系の異常が起こるという報告があります。
また、PTSDの後には、重症の感染症を来しやすい、という報告もあります。

ただ、ストレス関連疾患と感染症との関係については、これまであまりまとまった臨床データがありませんでした。

ストレス関連疾患患者の重症感染症リスクを検証

特に、PTSD患者や年齢が若い患者に感染症リスクが増加

今回の研究は国民総背番号制を敷いているスウェーデンのもので、144919名のストレス関連疾患の患者さんと、その患者さんの兄弟184612名、そしてストレス関連疾患のない、一般住民1449190名のコントロールを対象として、平均観察期間8年間で、その間の重症感染症の発症リスクと基礎疾患との関連を検証しています。

その結果、敗血症などの命に関わる感染症の発症率は、ストレス関連疾患の患者さんでは、年間1000人当たり2.9件であったのに対して、その病気を診断されていない兄弟では1.7件、コントロール群では1.3件でした。

病気のないその兄弟と比較して、ストレス関連疾患の患者さんでは、重症感染症の発症リスクが1.47倍(95%CI: 1.37から1.58)、PTSDの患者さんに限ると1.92倍(95%CI: 1.66から2.28)有意に増加していました。
このストレス関連疾患による重症感染症のリスクは、一般住民のコントロールとの比較でも、ほぼ同等に算出されました。

このストレス関連疾患に伴う重症感染症リスクの増加は、患者さんの年齢が若いほど大きく、その診断から1年以内に抗うつ剤のSSRIが使用されていると、そのリスクは軽減する傾向が認められました。

受傷後は感染症のリスクも考えた対応を

このように、ストレス関連疾患の受傷後には、かなり長期に渡って重症感染症のリスクの増加が見られていて、この現象がストレスによる免疫系の異常などによるものなのか、ストレスに伴う喫煙や生活習慣の乱れなどによるものなのか、それとも別個のメカニズムが隠れているのか、といった詳細は不明ですが、今後の研究の進捗を待つと共に、現時点ではストレス関連疾患の患者さんにおいては、感染症の重症化のリスクは高いと想定して、対応する必要がありそうです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36