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2023.08.18

卵アレルギー発症は母親の卵摂取で左右される?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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食物アレルギーは、健康や日常生活に様々な影響を与えます。特に子供の食物アレルギーは周りの理解とサポートが重要な課題となります。

今回ご紹介するのは、JAMA Network Open誌に、2023年7月10日付でウェブ掲載された、卵アレルギーに与える母体の卵摂取の影響についての論文です。日本のアレルギー診療で有名な相模原病院などによる臨床研究です。

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食物アレルギーは近年増えている?

食物アレルギーは近年急増しているアレルギー疾患です。欧米では牛乳、卵、小麦、ピーナツが食物アレルギーの主要なアレルゲンで、上記論文の記載では、小児のおよそ10%は食物アレルギーを持っていると推計されています。

一度食物アレルギーを発症しても、そのアレルゲンを極少量ずつ投与すると、徐々に耐性が獲得されて、そのアレルゲンを含む食品を、食べられるようになることがあります。

乳児期の早期、たとえば生後3から4か月くらいの時期に、そうしたアレルゲンに慣れることにより、将来の食物アレルギーを予防できるのでは、という考え方があり、実際に複数の臨床試験で、一定の有効性が報告されています。

今回の対象疾患である卵アレルギーについても、生後3から6か月の早期で卵を少量から摂取することにより、卵アレルギーが一定レベル予防された、という報告があります。ただ、こうした臨床試験のデータから明らかになった知見として、生後3か月でまだ卵を食べていないのに、既に卵アレルギーを発症している、というケースが少なからずあることが分かりました。これは母親が摂取した卵が、母乳を介して新生児に影響を与えた可能性を示唆しています。

それでは、出生後すぐの時点で母親が卵を食べることが、新生児にどのような影響を与えるのでしょうか?

出産後の母乳を与えて検証

今回の臨床研究では、日本の複数の専門施設において、アレルギー素因のある両親から生まれた、380名の新生児をくじ引きで2つの群に分けると、一方は出産後5日間毎日1個の卵を母親が摂取して母乳を与え、もう一方は卵を5日間制限して母乳を与え、生後12か月の時点での卵アレルギーの発症頻度を比較検証しています。

その結果、生後12か月の時点での卵アレルギーは、卵接種群の9.3%、卵制限群の7.6%に認められ、卵摂取で多いという傾向は認められましたが、有意な差は認められませんでした。

生前、生後の環境の影響は更なる検証が必要

生後すぐから、場合によっては生まれる前の環境すら、議論の対象となっている食物アレルギーですが、この問題はまだ多くの検証が必要であるようです。

記事情報

参考文献

著者/監修医プロフィール

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36