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2022.09.01

シールを貼るだけ。最新の血圧測定システムとはどんなもの?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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医療や健康管理に欠かせない血圧測定。腕にぐるっとベルトを巻いて圧力をかけて測定する方法が一般的ですが、もっと簡単に測定できる可能性が出てきました。

今回ご紹介するのは、Nature Nanotechnology誌に、2022年6月20日ウェブ掲載された、皮膚に貼るだけで持続的に血圧を測定可能な、新しい計測システムについての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

ラクに血圧を測れる方法はあるのか?

血圧測定というのは、20世紀初頭以降に普及して、兵士の健康管理などに活用され、第二次大戦後には世界中で測定されることにより、高血圧の管理と治療に幅広く使用されました。その上昇と低下はいずれも身体の危険な状態を示すサインとなります。

このように広く普及して、医療や健康管理に欠くことの出来ない指標となった血圧ですが、その測定法については大きな課題があります。

初期の血圧測定は、動脈の脈波をそのまま測定していたのですが、それは血管にセンサーを挿入するような方法で、とても一般に普及可能なものではありませんでした。

その後マンシェットという布を巻き付け、水銀を利用して聴診器により、血管から発せられるコロトコフ音という音を聴取することにより、血圧を簡単に測定する方法が開発され、水銀は毒性の問題から今は非使用ですが、原理はそのままに今も活用されています。

ただ、この方法には幾つか問題があります。

まずコロトコフ音が何なのか、完全には解明されていません。それがほぼ動脈にセンサーを入れて測定した、血圧の上下に一致していることは事実ですが、原理が不明なものを使い続けていてそれで良いのか、という疑問は残ります。

また、マンシェットに加圧して腕を締め上げ、一度阻血してから解放するという方法は、結構ストレスの掛かるもので、人によっては強い痛みを感じて、施行すること自体で血圧が上昇してしまい、正確な血圧の測定になっていないのではないか、という疑問が生じます。

更にこの方法は一度測定を行うと、少しインターバルを置かないと再測定出来ないので、血圧自体は連続しているものですが、連続して測定することが難しい、という欠点もあります。

近年アップルウォッチのような端末では、着けているだけで血圧が測定され数値が表示されます。

これは光センサーにより測定する方法で、聴診法とは全く別の仕組みですが、端末のずれにより簡単に数値が変動してしまうなど、少なくとも医療で使用可能な精度を持っているものではありません。

新しい血圧測定の仕組みとは

それでは、より簡単でストレスがなく、連続使用が可能で正確な血圧測定法はないのでしょうか?

これが今回紹介されている、新しい血圧測定の仕組みです。

バイオインピーダンス・タトゥーという言い方がされていますが、バーコードのようなシールを手首に貼り付け、そこのセンサーで皮膚の抵抗を測定することにより、手首の動脈の動脈波を再現するのです。

これまでの多くの血圧測定法は、聴診法と測定値を一致させていたのですが、今回の方法は動脈波の波形と一致させています。動脈波の波形はメカニズムも明確ですから、この方式の方が理に適っているという気がします。

この方法では一回のシールの装着により、300分(5時間)以上の血圧が連続的に測定可能で、実際の複数の被験者を利用した測定でも、高い精度が確認されました。

シールで動脈波を測る方法が主流になるかも

これはまだ研究段階の成果ですが、今後こうした動脈波を簡便に測定する方法が、従来の血圧測定に取って変わることは、間違いのない流れであるように思います。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36