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2023.11.10

肥満治療にGLP-1アナログを使うと、どんな有害事象が起こる?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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最近メディアでも話題となっているGLP-1アナログを用いたダイエット。肥満治療には有用と聞きますが、どれくらいの副作用をもたらすのでしょうか。

今回ご紹介するのは、JAMA誌に2023年10月6日付で掲載されたレターですが、GLP-1アナログと肥満治療に使用した場合の、消化器系の有害事象の頻度についての内容です。

▼石原先生のブログはこちら

肥満症の治療に使われ始めたGLP-1アナログ

GLP-1アナログは、人間の消化管から分泌されるホルモンである、GLP-1と同じ作用を持つ薬剤で、その膵臓を刺激してインスリン分泌を促し、血糖を降下させる作用から、糖尿病の治療薬として開発されて使用され、その臨床データで体重減少効果が認められたことより、最近では肥満症の治療薬としても注目されている薬剤です。

もともとは注射の製剤しかなかったのですが、最近になって内服薬も開発され、その使用のハードルはグッと下がりました。

アメリカでは、セマグルチドとリラグルチドの2種類のGLP-1アナログが、肥満症の治療薬として使用されています。日本ではセマグルチドが2023年に承認されましたが、その使用が始まる前に、多くの自費のクリニックなどで、糖尿病治療薬のGLP-1アナログが、ダイエットや減量目的で使用されている、というかなり無秩序な状態が、生じているような気がします。

しかし、GLP-1アナログには、主に消化器系の有害事象のリスクがあります。それは、胆道系疾患、膵炎、腸閉塞、胃不全麻痺、などの発症増加です。

ただ、このデータは糖尿病の治療に施行した場合のもので、肥満症の治療に対して使用した場合にも、同じようなリスク増加があるとは限りません。

2種類のGLP-1アナログの有害事象を検証

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そこで今回の研究では、アメリカの大規模な処方のデータベースを活用して、セマグルチドとリラグルチドの2種類のGLP-1アナログの、肥満に対する処方を、それ以前の肥満症のアメリカの治療薬である、ブプロピオン・ナルトレキソン併用療法と比較して、消化器系有害事象のリスクを比較検証しています。

その結果、GLP-1アナログの使用は、ブプロピオン・ナルトレキソン併用療法と比較して、膵炎のリスクを9.09倍(95%ci:1.25から66.0)、腸閉塞のリスクを4.22倍(95%CI:1.02から17.40)、胃不全麻痺のリスクを3.67倍(95%CI:1.15から11.90)、それぞれ有意に増加させていました。胆道系疾患のリスクについては、有意な増加はありませんでした。

糖尿病治療同様、膵炎等のリスクに注意して

このように、肥満症に対する治療においても、糖尿病の治療と同様に膵炎などのリスク増加は認められていて、GLP-1アナログの使用時には、常に消化器系の疾患の発症に、留意をする必要があるようです。

記事情報

参考文献

著者/監修医プロフィール

石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36

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