2022.12.01
食生活を変えれば認知症は予防できるのか【kencom監修医・最新研究レビュー】
認知症予防についてはさまざまな研究がされています。適度な運動や社会活動などが認知症予防には効果があると言われていますが、食事内容で影響は出るのでしょうか。
今回ご紹介するのは、Neurology誌に2022年10月12日掲載された、認知症の発症に食生活が与える影響についての論文です。
▼石原先生のブログはこちら
認知症は食事で予防できるのか
認知症の発症には生活習慣が関与しており、その予防のために食事が重要であるという考え方があります。
実際地中海ダイエットと呼ばれる、魚とナッツやオリーブオイルを多く摂り、赤身肉やバター、マーガリンなどの動物性脂肪を控える食事で、認知症リスクが低下したとする臨床データが報告されていますが、その研究の精度はそれほど高いものではありません。
食事パターンによる認知症予防効果を検証
今回の研究はスウェーデンにおいて、一般住民28025人に詳細な食事のアンケートを施行し、その食事パターンを分析して、その後中間値で19.8年という長期の経過観察を行い、認知症リスクと食事パターンとの関連を検証しているものです。
これまでの同種の研究の中でも、単独の研究としては対象者数も多く観察期間も長期で、食事内容の分析も詳細であるという特徴があります。
食事パターンは、スウェーデンにおいて健康な食事パターンとして、推奨されているものと、地中海ダイエットの食事パターンを、どのくらい遵守しているのかを指標として分析されています。
スウェーデンで推奨されているダイエットは、食物繊維を多く摂り、砂糖を減らし、魚や果物、野菜を多く摂り、赤身肉や加工肉を減らすというもので、地中海ダイエットもそこまでについては、ほぼほぼ同一なのですが、それに加えて赤ワインを飲み、バターやマーガリンを減らし、ナッツやオリーブオイルを沢山摂る、という特徴を持っています。
観察の結果、地中海ダイエットの食事パターンを遵守していても、遵守していない場合と比較して、トータルな認知症の発症リスクも、認知症による死亡リスクも、個々の認知症の発症リスクも、いずれも有意な差は認められませんでした。
一部の事例では脳のアミロイドβ蛋白の蓄積が検査されていますが、その蓄積の程度と食事パターンとの間にも、明確な関連は認められませんでした。
認知症を食事だけで予防するのは難しそう
このように、今回の検証においては、健康に良いとされる食事パターンを遵守していても、認知症の明確な予防には結びついていませんでした。
これをもってこうした食事に意味がない、というようには言えませんし、心血管疾患などの予防においては、明確な予防効果が確認されている点は強調するべきですが、こと認知症予防という点に限定すると、食事に多くを期待することは、現状は難しいと考えた方が良いようです。
▼参考文献
<著者/監修医プロフィール>
■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36