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2019.02.06

自分のスタイルに合わせた治療が重要【動脈硬化の一因に!脂質異常症#2】

KenCoM公式ライター:黒田創

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従来言われていた高脂血症などの病気を含め、血中の脂肪分に関する異常を表すようになった脂質異常症。多くの場合は生活習慣の乱れなどで悪化するようです。実際罹患するとどのようなことが起こるのでしょうか?
身体に起こる疾患の詳細や病院での治療・改善策について、引き続き山王病院の岸本美也子先生にお話を伺いました。

脂質異常症がもたらす動脈硬化の怖さ

動脈硬化のメカニズム

#1でも説明した通り、脂質異常があると狭心症や心筋梗塞、脳梗塞発症といった動脈硬化性疾患の発症リスクが高まります。ここでは脂質異常症から動脈硬化に至るメカニズムを詳しく見てみましょう。

①血液中のLDL(悪玉)コレステロールが増えすぎると、高血圧や糖尿病などで血管の内側に傷ができた時に、そこにLDLコレステロールが入り込んで通常のLDL受容体では取り込めない酸化LDLが発生してしまう。

②酸化LDLを異物として処理するために、マクロファージが取り込む。(※マクロファージは白血球の1種で、死んだ細胞やその破片、体内に生じた変性物質や侵入した細菌などを捕食して消化し、清掃屋の役割を果たす)

③マクロファージが死滅した後、残骸としてコレステロールが粥状になったもの(=アテローム)がたまってしまう。

④血管の壁にプラークと呼ばれる瘤(こぶ)ができ、内腔が狭くなる。

⑤プラークが破れて中身が出てくると、血小板が集まってきて血栓をつくり、血管が詰まってしまう。

HDL(善玉)コレステロールは組織の中にある余分なコレステロールを肝臓に戻す役割があるため、血液中にHDLコレステロールが多いと、血管壁のコレステロールを取り除いて動脈硬化を防ぐ方向に働くと予想されます。私たち専門医が皆さんにLDLコレステロールの値を下げ、HDLコレステロールの値を高めることをお奨めしているのはそこに理由があるのです。

LDLコレステロール値のみならず、中性脂肪が高くなることも脂質異常症における大きな問題です。内臓脂肪量が多いほど空腹時高血糖、脂質異常、高血圧などの合併症が多いことが報告されていますし、中性脂肪に関しては、空腹時TG(トリグリセライド=中性脂肪)150mg/dL以上で冠動脈疾患の発症が増加し、空腹時TG 165mg/dL以上で心筋梗塞、労作性狭心症、突然死が増加することが報告されています。

これは家族性高コレステロール血症や急性冠症候群の際に考慮するリスク区分別脂質管理目標値です。冠動脈疾患の既往歴、高リスク病態、性別、年齢、危険因子の数とその程度など、患者一人ひとりの背景によりリスクは大きく異なります。

これは家族性高コレステロール血症や急性冠症候群の際に考慮するリスク区分別脂質管理目標値です。冠動脈疾患の既往歴、高リスク病態、性別、年齢、危険因子の数とその程度など、患者一人ひとりの背景によりリスクは大きく異なります。

さらには中性脂肪の値が高いと、動脈硬化やLDLコレステロールを増やしてしまうこともわかっています。また中性脂肪は肝臓で合成されますが、量が増えてしまうと脂肪肝になり、肝機能が低下してしまいます。中性脂肪が500mg/dL以上になると急性膵炎を起こす恐れもあるのです。

脂質異常症と診断された場合の治療法

脂質異常症の原因となる疾患が認められれば、まずはその治療が先決となります。遺伝的な要因(家族性高コレステロール血症など)や冠動脈疾患の既往歴がある場合は基本的に薬物療法が必要で、そのうえで生活習慣の改善も図ります。
また、原因が生活習慣に依るものと考えられる場合は、その見直しが大前提となります。それでも病態が良くならない場合は、生活習慣の改善は継続しつつ、薬物治療も考慮します。

「薬で治るのなら生活習慣の改善は必要ないのでは?」と考える方もいるかもしれませんが、脂質異常症の治療は糖尿病と同じく、生活習慣の改善が大きな割合を占めています。
とはいえ自分のライフスタイルに合わない生活習慣は長続きしません。無理なく長期間続けられる改善方法を医師と一緒に探ることが大事です。

薬物療法については、スタチンという薬がLDLコレステロールの値を低下させ、動脈硬化性疾患発症リスクを抑制することがわかっており、治療薬として用いられることが多いです。
一般名としてはアトルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチンといった薬がこれに該当し、これらの安全性は確立されています。

生活習慣の改善を基本に、時には薬も

まずは生活習慣の改善が大事。これは生活習慣病と言われている病気全般に言えることですが、罹ってからだとなかなか難しいものです。だからこそ予防が大事になります。
次回は脂質異常症治療のための生活習慣改善方法や予防策などについて説明します。

■脂質異常症の他の記事はこちら

岸本美也子(きしもと・みやこ)先生

山王病院(東京都港区)内科部長。国際医療福祉大学講師。糖尿病と脂質異常症の治療が専門。治療のうえで必要な個々の患者の自己管理が長く継続できるよう、個人の生活状況に応じた無理のない親身な療養指導を心がけ日々診療を行っている。

著者プロフィール

■黒田創(くろだ・そう)
フリーライター。2005年から雑誌『ターザン』に執筆。ほか野球系メディアや健康系ムックの執筆などにも携わる。フルマラソン完走5回。ベストタイムは4時間20分。