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2024.04.01

プラスチック細片が健康に与える影響とは?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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プラスチック製品は海洋汚染などの原因になるだけでなく、体内に取り込まれると健康にも悪影響を及ぼす危険があるのだそう。

今回ご紹介するのは、the New England Journal of Medicine誌に、2024年3月7日付で掲載された、最近問題となっているプラスチックの身体への影響を検証した論文です。(※1)

▼石原先生のブログはこちら

身体に溜まっていくプラスチック細片

近年プラスチックの環境破壊が注目され、プラスチックの使用量を減らし、環境汚染を減らそうとする試みが広く行われています。これは主に環境への影響で、私達の身体への直接の影響ではありません。プラスチックそのものが体内に蓄積することは、通常はないと考えられていたからです。

しかし、プラスチックが分解劣化し、非常に微細な細片となると、それが食品に混ざって体内に入ったり、空気中の微粒子となって呼吸で肺に取り込まれたり、皮膚から吸収されるという可能性が否定は出来ません。

このプラスチックの細片のうち、大きさが1μmから5mmのものをマイクロプラスチック、より小さくnm(ナノメートル)レベルのものを、ナノプラスチックと呼び、上記論文ではこれを総称して、MNPs(Microplastics and Nanoplastics)と呼んでいいます。最近ではペットボトルの水の中に、一定レベルのナノプラスチックが同定された、という論文が発表されて話題となりました。(※2)つまり、こうした分解劣化したプラスチックの細片が、私達の身体の中に存在していることは、ほぼ間違いのないことなのです。それでは、その健康影響はどの程度のものなのでしょうか?

プラスチックが頸動脈の動脈硬化に与える影響を検証

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今回の研究では、頸動脈の動脈硬化病変に対して、血管内治療を行った304名の患者から採取された、動脈硬化巣(プラーク)の組織で、マイクロプラスチックとナノプラスチックの測定を行い、それが健康に与える影響を検証しています。その後の観察期間を完遂して解析対象となっているのは、そのうちの257名です。

その結果、全体の58.4%に当たる150名で、プラスチックの成分であるポリエチレンが、頸動脈のプラークから検出され、そのうちの31名では、通常の測定法でポリ塩化ビニールが定量されました。

そして平均で33.7か月(±6.9)の経過観察期間中に、心筋梗塞や脳卒中を発症したか、もしくは死亡したのは、プラスチックの細片が検出されなかった事例では7.5%であったのに対して、検出された事例では20.0%という高率になっていました。

プラスチックの細片は病変部分に蓄積する

今回の研究はまだ確定的なものではなく、マイクロプラスチックやナノプラスチックの健康影響は、仮定の域を出るものではありませんが、こうしたプラスチックの細片が、炎症などの病変部位に蓄積すること自体は、おそらくは事実であると考えられ、その健康影響を含めて、今後の研究の蓄積を注視したいと思います。

記事情報

引用・参考文献

著者/監修医プロフィール

石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。

略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医

発表論文
・Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
・Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
・Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36
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