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2019.05.01

栄養を摂るならサプリと食品、どっちが良いの?【ドクターズチョイス#5】

東京大学附属病院:稲島司先生

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忙しい時に足りない栄養素を補うのに役立つサプリメント。利用されている方も多いのではないでしょうか。
ですが、足りないものを得ようとするあまり摂りすぎてしまうと、危険なことになるかもしれません。
つかさ内科の稲島司先生が科学的根拠をもとに警鐘を鳴らしています。

Q:栄養は食事とサプリ、どちらで取るべきですか?

A:安全性を考えるなら食事で摂りましょう

連日「この栄養素を摂ると良い」といった報道がなされ、様々なサプリメントが市場に登場しています。それら全てに関して否定するようなエビデンスはないのですが、ある一部の栄養素に関しては明確に死亡率を引き上げたり、病気のリスクを増大させているという結果が出ています。このような観点から考えるとサプリメントで栄養を摂るよりも、しっかりと食品で摂った方が良いという結論になります。

例えばβカロテン。
緑黄色野菜に多く含まれるこの栄養素は疾病予防の効果が期待されている栄養素です。有害な活性酸素から身体を守ったり、生活習慣病を予防するビタミンAに変化して免疫力を高めたり、皮膚・粘膜の保護などの効果がある上に、最近の研究ではがんの予防効果も期待されていました。
そこで喫煙者がβカロテンサプリメントを摂取した場合、肺がんの予防につながるのかを検証すべく、4つの大規模実験からメタ解析(※)が行われたのです。
その結果が以下の表です。

※メタ解析とは、研究手法の一つ。世界中で行われている臨床試験の結果を統合し、『より多くの症例を調査した結果』とみなして解析したもの。

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オッズ比というところを見てください。これは肺がんが発症する確率を記したものですが、4つ中3つの研究で、1以上の数字になっています。すなわち、普通の状態よりも肺がんになるリスクが高い状態になっているという結果になりました。

原因はわかっていないのですが、野菜を食べている人はむしろリスクが低いにも関わらずです。そんな結果が出ている以上、サプリメントではなく食事でしっかり栄養を摂った方が良いということになります。

ビタミン系サプリの中には明確に死亡リスクが増加するものも

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認知症の予防に有効とされるビタミンEはどうでしょうか。
実はビタミンEの高用量摂取に関しては、わずかですが明確に死亡リスクが増加するという結果が論文で出ています。

では、マルチビタミンマルチミネラルならいいのではないか。総合的に摂れるわけですからなんだか身体に良さそうです。
しかし、こちらもビタミンEほどではないですが、あまりいい結果が出ていません。アメリカのミネソタ大学が55〜69歳の女性4万人を対象に行なったサプリメントの使用と死亡率を追った調査では、マルチサプリメントを摂っている人の死亡率は1.06倍(95%信頼区間1.02-1.09)。
ほんの少しですが、統計学的に有意に死亡率が高いという結果になりました。
もはや、サプリの使用で健康面や安全性の担保は難しいとも言える内容です。

カルシウムでは動脈硬化のリスクが上昇

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女性に不足しがちと言われているカルシウムに関しても注意が必要です。
実は、カルシウムに関してはサプリメントに限らず摂りすぎることによって死亡率が上がるという研究結果が出ています。
この研究結果によると、カルシウムは1日の摂取量が1000mgだと死亡率が最も低く、500mg程度と少ない場合に死亡率が上昇しています。
さらに意外なことに、1500mgを超え、2000mgに迫るに従ってどんどんと死亡率が上がっていくのがわかります。
詳しい数値を見ると、女性では1400mg以上摂っていると、死亡率が1.4倍になるとしています。

死亡率が増加するのはカルシウムが動脈に沈着することによる心血管疾患と考えられています

加えることより減らすことを考えよう

以上の結果、健康に良さそうという理由だけでサプリメントを飲み始めるのはあまりおすすめできません。研究者の多くは有用なサプリメントを証明しようとしたのだと思うのですが。
むしろ、現代人は摂りすぎている栄養素をどうにかした方が良いケースが目立ちます。

サプリメントで補う前に、まずは自分の食生活を見直してみるのが大切ですよ。

■以前の記事はこちらからどうぞ!

参考文献

著者プロフィール

■稲島司(いなじま・つかさ)先生
つかさ内科院長 医学博士
2003年東京医科大学医学部を卒業。2008年東京大学大学院医学系研究科を修了。循環器内科の専門診療のほか、外来診療を中心に生活習慣病の予防・改善に携わる。東京大学医学部附属病院・地域医療連携部専任医師。2019年よりつかさ内科を開業し院長に就任。論文を中心とした医学エビデンスを紹介しながらの説得力のある講演や著作は人気を博している。内科認定医。循環器専門医。認定産業医、認定健康スポーツ医。
著作に『世界の研究者が警鐘を鳴らす 「健康に良い」はウソだらけ 科学的根拠(エビデンス)が解き明かす真実』(新星出版社刊)、『血管を強くする歩き方: パワーハウス筋が健康を決める』(木津 直昭との共著・東洋経済新報社刊)などがある

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