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2019.01.16

赤身肉と動脈硬化の関係性とは?【KenCoM監修医・最新研究レビュー】

KenCoM監修医:石原藤樹先生

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良質なタンパク質源である赤身の肉。栄養豊富で健康にいいイメージがありますが、どうやら長所ばかりではないようです。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにKenCoM監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、KenCoM読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

本日ご紹介するのは、2013年のNature Medicine誌に掲載された、赤身の肉に多く含まれる成分のカルニチンが、動脈硬化の進行と関連しているのでは、というちょっとショッキングな内容の論文です。

▼石原先生のブログはこちら

赤身肉は健康にいいのか悪いのか

心血管疾患や死亡リスクが高まるという報告も

肉を多く食べることが健康にとってどのような影響を与えるのか、というのは多くの議論のある問題です。

肉を多めに摂ることが健康に良い、という趣旨のデータもある一方、特に赤身肉やソーセージなどの加工肉の摂取が多いと、心血管疾患のリスクや総死亡のリスクが増加する、という複数の報告が存在しています。

仮に赤身肉の摂取と心血管疾患のリスクが関連しているとすると、それは赤身肉に含まれるどのような成分によるものなのでしょうか?

赤身肉に含まれるカルニチンが原因?

その1つの候補と考えられているのが、カルニチンです。

カルニチンは脂質代謝に関わるビタミン様の物質で、活性のあるLカルニチンは、動物の赤身肉に多く含まれています。
カルニチンは筋肉細胞内にあって、脂質をミトコンドリアに運んで代謝を促進働きを持っています。

このためカルニチンを多く摂ることにより、脂肪代謝が亢進してダイエット効果が期待されるのではないか、という健康への良い影響を期待する見解もありました。

しかし、その一方でカルニチンを多く摂取することで、心血管疾患が増加することを示唆する報告もあります。

仮にカルニチンが動脈硬化の進行と結び付いているとすると、そのメカニズムはどのようなものなのでしょうか?

カルニチンと心血管疾患のメカニズムとは?

カルニチンを摂ると、腸内細菌の代謝によって動脈硬化促進物質が生まれる

今回の研究ではネズミの実験により、L-カルニチンを摂取することにより、腸内細菌の代謝によってトリメチルアラニン(TMA)という物質が生まれ、それが更に肝臓で代謝されてトリメチルアラニンーNーオキサイド(TMAO)という物質が、生まれることを確認しています。

このTMAOには、コレステロールの組織からの抜き取り能を低下させ、コレステロールの組織への蓄積を増加させて、結果として動脈硬化を促進する働きのあることが確認されています。

こちらをご覧下さい。

赤身肉の摂取による動脈硬化促進のメカニズムの仮説を、図示したものがこちらになります。

今回の研究では腸内細菌の影響を排除することにより、TMAOの発生がブロックされていることも確認しています。

人間における補助的なデータも付加されていますが、まだ人間においても同じことが起こっていることは、確実とは言えません。

今後の検証に期待

その点については今後の検証を待ちたいと思いますが、カルニチンが腸内細菌の影響によって動脈硬化促進物質に変化する、という今回の知見は大変興味深く、今後の更なる検証に期待したいと思います。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36