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2024.05.03

脂肪肝に効果あり?低用量アスピリンの有効性【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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解熱鎮痛薬や抗血小板薬に使われているアスピリンですが、実は脂肪肝の進行予防にも効果がありそうです。

今回ご紹介するのは、JAMA誌に2024年3月19日付で掲載された、脂肪肝に対する低用量アスピリンの有効性についての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)とは

肝機能障害が命に関わるのは、肝硬変や肝臓癌になった場合で、その原因としてはB型肝炎やC型肝炎による慢性肝炎や、アルコール性肝障害が知られています。ただ、近年それ以外で注目されているのが、アルコールを飲まないのに脂肪肝や脂肪肝炎を発症し、中には肝硬変に至り肝臓癌を合併する事例もある、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)です。

NAFLDのうち、肝臓の組織に通常の脂肪肝とは別個の所見を持ち、進行性で肝硬変などのリスクの高い脂肪肝炎の状態を、特にNASH(非アルコール性脂肪肝炎)と呼んでいます。通常NAFLDは肝細胞への脂肪の沈着で始まり、長い月日を掛けて、肝臓の炎症と線維化とが進行して、その一部がNASHの状態に至ると考えられています。そのメカニズムは内臓脂肪の増加と関連していますから、当然肥満や糖尿病とも関連の深い病態です。従って、NAFLDのある人は、心筋梗塞や脳卒中の発症リスクも高くなっています。つまり、NAFLDはメタボの1つの現れ、というように、考えることも出来るのです。

代謝異常関連脂肪性肝疾患(MASLD)という概念も

ここまでは、脂肪肝などの脂肪性肝疾患を、お酒を飲むかどうかで分類するという視点でした。より最近になって、新たに「代謝異常関連脂肪性肝疾患」という概念が提唱されているようになりました。

英語ではMetabolic Dysfunction-Associated Steatotic Liver Disease、これを略してMASLDです。MASLDは今度は飲酒の有無には関わらず、糖尿病や高血圧、肥満など、メタボに関わる代謝異常があって、脂肪肝などの脂肪性肝疾患がある状態を指している言葉です。NAFLDの中でも、肝硬変に至るような事例と、そうではない事例とがあり、代謝性疾患やメタボを合併している時に、重症化のリスクが高いことから、こうした概念が提唱されたのです。

それぞれ理屈や理由はあるのですが、コロコロと新しい言葉が次々と出て来て、分類も変化してしまうので、かなりややこしいという感じはあります。

NAFLDやMASLDに有効な治療法は?

さて、NAFLDにもMASLDにも、現時点で確実に有効性が確認された治療はありません。低用量のアスピリンは、動脈硬化に伴う病気の再発などのリスクを、抑制する効果が確認され、広く使用されている薬剤です。この低用量アスピリンの主要な作用は、血栓の形成などに重要な役割を持っている、血小板の作用を抑制することですが、実は肝臓の細胞の炎症や線維化の進行においても、血小板が重要な働きを持っていることが報告されています。

そのため、低用量アスピリンを使用することで、脂肪肝炎の進行が抑制される可能性が注目されているのです。

低用量アスピリンの有効性を調査

記事画像

今回の研究はアメリカにおいて、肝硬変までは進行していないMASLDと診断された患者、トータル80名をくじ引きで2つの群に分けると、一方は1日81mgの低用量アスピリンを継続して使用し、もう一方は偽薬を使用して、半年間の治療後の肝脂肪量の低下の有無を、MRIを用いた定量法により比較検証しているものです。

その結果、半年の治療後の肝脂肪量は、偽薬群では3.6%増加していたのに対して、アスピリン使用群では6.6%減少していて、アスピリンは偽薬と比較して、肝脂肪量を10.2%(95%CI:-66.7から-2.6)有意に低下させていました。

アスピリンが脂肪肝炎の進行予防に有効かも

これはまだ試験的な結果に過ぎませんが、古くから使用されている安価な薬剤が、脂肪肝炎の進行予防にも有効な可能性がある、という結果は非常に興味深く、今後より多数例でより厳密な方法での再検証に期待をしたいと思います。

記事情報

引用・参考文献

著者/監修医プロフィール

著者/監修医プロフィール

石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。

略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医

発表論文
・Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
・Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
・Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36
© DeSC Healthcare,Inc.

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