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2022.05.09

理解すれば怖くない!身体に良い油、取りすぎ注意な油

kencom公式:管理栄養士・前田 量子

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“油”や“脂質”と聞いて、どんな印象を持ちますか?
健康的な印象でしょうか。それとも不健康な印象でしょうか。

おそらく不健康な印象を持つ方が多いのではないかと思います。

糖尿病や脂質異常症、高血圧など生活習慣病の増加が深刻になってから久しいですが、そこで出てくるキーワードのひとつに「食の欧米化」があり、動物性脂質の摂取量増加がよく指摘されます。

また、肥満は生活習慣病の引き金になることが多いため油を摂りすぎないようにしましょう、と見聞きすることも多いと思います。そのため、油や脂質と聞くと不健康な印象をもちやすいのでしょう。

悪者にしないで!脂質の大切な働き

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脂質は1gで9kcalと、糖質やタンパク質に比較して2倍以上のエネルギーを生みだします。そのため、運動不足など消費が追いつかないと肥満につながってしまうという特徴があります。

ではすべて排除すればよいのでしょうか。そんなことはありません。

体内における脂質の役割はエネルギーだけでなく、ビタミンA・D・E・Kなどの脂溶性ビタミンの吸収を助けたり、細胞膜や角膜、神経組織等の構成成分になったりと重要な働きもしているのです。

脂質の種類

脂質は化学構造から
1.単純脂質
2.複合脂質
3.誘導脂質
に分類されます。

その中でも単純脂質がいわゆる「脂肪」と言われるもので、エネルギー源として生体の脂肪組織中に存在し、食品中の脂肪の大部分を占めています。
脂肪酸とアルコールが結合した構造をしているのですが、ではこの脂肪酸とはどういうものなのでしょうか。

脂質の性質を決める脂肪酸

脂質とひとことで言っても、なたね油や大豆油などの植物性油と、牛脂(ヘット)や豚脂(ラード)などの動物性油では、見た目からして全く異なりますよね。

植物性油は常温ではサラサラと液体のものが多いのに比べ、動物性油は常温で固体であることが多いのが特徴です。
どうしてこんなにも性質が変わるのかと言うと、脂肪酸が異なるからです。脂肪酸には様々な種類があり、その組み合わせにより性質が決まるのです。

脂肪酸は「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」の2種類

出典:農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trans_fat/t_kihon/fatty_acid.html#1)

出典:農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trans_fat/t_kihon/fatty_acid.html#1)

脂肪酸は、構造の違いにより「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」の2種類に大きく分類できます。

脂肪酸は炭素(C)、水素(H)、酸素(O)の3種類の原子で構成されており、炭素原子が鎖状につながった一方の端にカルボキシル基(-COOH)がついています。
細かい説明は省きますが、炭素と炭素の間に二重結合が全くないものを飽和脂肪酸、二重結合があるものを不飽和脂肪酸といいます。

「飽和脂肪酸」は動脈硬化と関連も

飽和脂肪酸は肉類や乳・乳製品の脂肪に多く含まれています。

融点が高い(溶ける温度が高い)ため常温で個体のことが多いのも特徴です。
中性脂肪やコレステロールなどの血液中の脂質濃度の上昇に影響し、高脂血症や動脈硬化との関連が高い脂肪酸と言われています。

「不飽和脂肪酸」は野菜やゴマ、魚に含まれる

不飽和脂肪酸は野菜やゴマ等の種実、魚等に多く含まれています。融点が低い傾向にあるため、常温で液体・柔らかいことが多いのが特徴です。

そして、不飽和脂肪酸の中でも二重結合が1つの一価不飽和脂肪酸と2つ以上の多価不飽和脂肪酸があります。

一価不飽和脂肪酸は体内で酸化しにくい

一価不飽和脂肪酸のオレイン酸はオリーブ油・キャノーラ油・種実に多く含まれています。
コレステロールの中でも「善玉」と呼ばれるHDLコレステロールは下げずに、総コレステロ―ルを下げる働きがあるとされており、動脈硬化予防効果で注目されています。

また体内で酸化しにくく、有害な過酸化脂質が作られにくいのも特徴です。

多価不飽和脂肪酸は積極的に、でもバランスに気を付けて

多価不飽和脂肪酸にはn-3系とn-6系があります。

n-6系にはリノール酸、γ-リノレン酸、アラキドン酸があります。

リノール酸は大豆油や綿実油に含まれます。血液中のコレステロールの低下、動脈硬化の予防等の健康効果があります。しかし、摂りすぎると動脈硬化やアレルギー、高血圧などを招いてしまうため注意が必要です。

γ-リノレン酸は月見草油、母乳に含まれており、血糖値や血液中のコレステロール、血圧を低下させる効果があるとされてます。

アラキドン酸はレバーや卵白に含まれており、血圧や免疫系の調節作用があるとされています。しかし摂りすぎると動脈硬化、アレルギー、湿疹を招くので注意が必要です。

n-3系にはα-リノレン酸、DHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)があります。

α-リノレン酸はしそ油、えごま油、亜麻仁油に含まれており、アレルギー疾患予防や高血圧、心疾患、ガン予防効果があるとされています。

DHAは中性脂肪を低下させたり、高脂血症、高血圧、脳卒中、虚血性心疾患、アレルギーの予防効果があるとされています。

EPAは抗血栓作用や中性脂肪の低下、脳血管障害、虚血性心疾患、高血圧、動脈硬化、高脂血症、皮膚炎予防効果があるとされています。

DHAやEPAは魚に多く含まれ、特に青背の魚(さんま、いわし、さば等)に豊富に含まれています。

体内で合成できない必須脂肪酸

色々な脂肪酸が出てきましたが、この中でも体内で合成できない脂肪酸があります。

n-6系のリノール酸とアラキドン酸、n-3系のα-リノレン酸がこれにあたり、食べ物から摂取しなければならないので必須脂肪酸といわれています。

脂質は「量」と「質」に注目して摂ろう

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「脂質」と言っても様々なものがあり、体内での働きも様々です。
健康を維持するためには脂質を摂りすぎないことが大切ですが、量とともに質に気を付けましょう。

脂質が不足すると、血管や細胞膜が弱くなり脳出血の可能性も高くなります。しかし、飽和脂肪酸は摂りすぎると動脈硬化や肥満を招く恐れがあるためできるだけ控え、一価不飽和脂肪酸のオレイン酸やn-3系の多価不飽和脂肪酸を積極的にとりましょう。

調理の時はオリーブ油やキャノーラ油などの植物油を使用するようにし、1日1回は魚料理をとりいれると自然とバランスが整っていきます。
魚を毎日食べるのは大変と言う方は、ぜひ缶詰を活用してみましょう。特にさば缶にはn-3系の脂質が豊富に含まれていますし、骨ごと食べられるので不足しがちなカルシウムも摂れます。
そして何より家計にも優しく長期間保存が可能なため、いざという時の非常食にもなるというメリットがあります。

食事改善はコツコツと

どんなに栄養価の高い食事でも、1回で体調が良くなるものではありません。
食事改善はコツコツと続けることが重要ですが、長く続けるには無理は禁物です。サラダに混ぜる、味噌汁に混ぜる、など普段の食事にちょっと意識して加えると、無理なく続けられますよ。

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前田 量子(まえだ・りょうこ)

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管理栄養士 野菜ソムリエ ロジカル調理研究家。
著書『ロジカル調理』『ロジカル和食』『考えないお弁当』をはじめ、電子レンジの加熱時間や法則を書いた『ロジカル電子レンジ調理』が2022年2月に発売。調理科学で普段のもやもや悩みをすっきり解決 。スーパーの食材で本当に美味しく&家族が楽しみにしてくれる定番家庭料理を作れるようになる料理教室主宰。

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