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2023.09.12

少量の飲酒習慣が心血管疾患のリスク低下につながるのはなぜ?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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少量の飲酒は健康にいいと言われますが、それはいったいなぜなのでしょうか?

今回ご紹介するのは、Journal of the American College of Cardiology誌に、2023年6月付で掲載された、少量の飲酒習慣の健康効果のメカニズムについての論文です。(※1)

▼石原先生のブログはこちら

少量の飲酒は健康にいい?

少量の飲酒は、狭心症や心筋梗塞、脳卒中などの心血管疾患のリスクを、低下させると考えられています。

その代表的な知見はNew England…誌のこちらの論文です。(※2)

一時は1日日本酒1合程度の飲酒習慣は、トータルに健康に良い、とする見解もありましたが、その後の多くの疫学データがの解析からは、少量の飲酒でも一部の癌の増加などのリスクはあり、飲酒は健康面からは推奨されない、というのが一般的な見解となっています。

ただ、それでも心血管疾患のリスクのみについて見ると、少量の飲酒習慣にその予防的効果のあること自体は、否定はされていません。

何故少量飲酒にそのような健康効果があるのでしょうか?

少量の飲酒習慣があると虚血性心疾患リスクが低下

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今回の研究はアメリカ、マサチューセッツ州の、13の病院を擁する大規模医療システムである、Mass General Bringhamの利用者の医療データを活用して、飲酒習慣と心血管疾患リスクとの関連を検証、一部の利用者では脳のPET検査が施行されていて、その結果との関連も検証されています。

年齢の中間値が60歳で、60%が女性の、トータル53064名の健康データを解析したところ、飲酒習慣のない利用者と比較して、平均で毎日日本酒1合(アルコール量20グラム)以内の飲酒習慣のある利用者は、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞や心不全などの虚血性心疾患のリスクが、約22%(HR:0.786: 95%CI;0.717から0.862)有意に低下していました。

ここで脳のPET解析の結果と比較すると、脳内のストレス関連神経ネットワークの活性が、少量飲酒習慣のある利用者で有意に低下していました。多変量解析の結果として、そのストレス関連の反応の低下と、心血管疾患リスクの低下との間に、一定の関連のある可能性が示唆されました。

つまり、少量の飲酒習慣のある人では、脳がストレスを感じにくい傾向があり、それが心血管疾患のリスク低下に繋がっている可能性ある、という結果です。

飲酒によるリラックス効果等が影響しているかも

今回のデータのみからそうした結論を引き出すのは、やや強引な感じはしますが、アルコールそのものが心血管疾患に予防的とは考えにくく、以前ご紹介したような、一部のアルコール飲料に含まれるポリフェノールの効果や、今回指摘された飲酒のリラックス効果などが、少量飲酒の健康効果の、メカニズムの候補として挙げられていることは、確認しておく必要があると思います。

記事情報

参考文献

著者/監修医プロフィール

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36