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2024.03.11

便座の蓋を閉めて水を流すとウイルス飛散は防げるのか?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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ショッピングセンターや飲食店のトイレで、「便座の蓋を閉めてから水を流して下さい」という貼り紙を目にすることがあります。蓋を閉めてから流すことで、どれくらいウイルスや細菌の飛散は抑制できるのでしょうか。

今回ご紹介するのは、American Journal of Infection Control誌に、2024年2月付で掲載された、洋式便器の蓋を閉めて水を流すことの、感染予防効果についての論文です。(※1)

▼石原先生のブログはこちら

便座の蓋を閉めてから水を流すと菌が飛散しない?

最近不特定多数の方が利用する個室トイレには、「便器の蓋を閉めてから水を流して下さい」というような掲示がしばしば掲げられています。これは特に便中の感染性の病原体が、便器の蓋を開けたままで水を流すことにより、便座やその周辺に飛散して、それがトイレを介した感染リスクに繋がるという指摘があるからです。

たとえば、クロストリジウム菌という、院内感染などを引き起こす細菌について検証した研究では、便座の蓋を開いた場合と比較して、蓋を閉じて水を流すことにより、周辺への細菌を含む飛沫の拡散が、ゼロにはならないもののかなり抑制された、という結果が報告されています。(※2)

ただし、これは細菌の場合の話で、よりその大きさが小さく、新型コロナやインフルエンザ、ウイルス性腸炎などの原因となる、ウイルス感染についても成り立つことであるかどうかについては、まだ明確なデータがありませんでした。

ウイルス飛散も抑制できるのか

そこで今回の研究ではアメリカにおいて、実験に使用する無害なウイルスを使用して、それを排便時と同じように便器に巻き、便座の蓋を開けた場合と閉めた場合とで、トイレの水を流して、周囲へのウイルスの飛散の有無を比較検証しています。

その結果、周辺でのウイルスの飛散量には、便座の蓋を開けておいても閉めて水を流しても、明確な差は認められませんでした。つまり、トイレの蓋を閉めて水を流すことは、細菌感染の予防には繋がっても、ウイルス感染の予防には繋がらない、という結果です。

蓋を閉めるより便座の除菌の方が有効

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それでは、どのようにすればウイルス感染の予防が可能なのでしょうか?

研究では1つの試みとして、事前に便器を塩化水素系の消毒薬で洗浄を行ったところ、ウイルスの周囲への飛散は90%以上抑制されました。つまり、便器からのウイルス感染の予防には、定期的に便器を除菌することが、蓋の開け閉めよりも重要であるようです。

記事情報

引用・参考文献

著者/監修医プロフィール

石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。

略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医

発表論文
・Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
・Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
・Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36
© DeSC Healthcare,Inc.

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