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2024.02.23

早期の0期乳癌、長期予後はどうなるか?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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ごく早期の段階で乳癌が見つかった場合、どのような治療を行えば癌の進行を防げるのでしょうか。

今回ご紹介するのは、British Medical Journal誌に2024年1月24日付で掲載された、非浸潤性乳管癌(0期乳癌)の長期予後についての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

ごく早期の乳癌は手術するべき?

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非浸潤性乳管癌(ductal carcinoma in situ)というのは、乳癌の細胞が乳管の中に留まっていて、その周囲には広がっていない(浸潤していない)状態のことで、臨床的な分類では0期という最も初期の乳癌です。

この非浸潤性乳管癌は、以前は発見されることが少なかったのですが、乳癌検診の導入後、微細石灰化などの所見をきっかけとして、診断される機会が増え、その対応が問題となっています。

現状非浸潤性乳管癌に対しては、手術治療が行われることが一般的です。それは乳癌検診で見つかった非浸潤性乳管癌の長期予後を検証すると、浸潤性乳癌に進行するリスクが、一般住民の2倍以上に増加していた、というデータが存在しているからです。

ただ、実際には乳癌検診以外で、非浸潤性乳管癌が診断されるケースもしばしばあり、上記のデータにはそうした事例が含まれていない、という欠点がありました。

検診以外で見つかった初期の乳癌の予後を検証

そこで今回の研究ではイギリスにおいて、国レベルの癌登録のデータを活用し、1990年から2018年の間に乳癌検診以外で診断された、非浸潤性乳管癌の事例、トータル27549例の予後を検証しています。

事例によっては20年を超える、2018年末までの観察期間において、検診以外で診断された非浸潤性乳管癌が、その後に浸潤性乳癌に進行するリスクは、一般住民の浸潤性乳管癌発症リスクと比較して、4.21倍(95%CI:4.07から4.35)有意に増加していました。

また累積の乳癌による死亡のリスクも、一般住民の平均的死亡リスクと比較して、3.83倍(95%CI:3.59から4.09)有意に増加していました。この非浸潤性乳管癌の浸潤性乳癌と乳癌による死亡リスクの増加は、少なくとも診断後25年に渡り認められました。

乳房の部分切除は放射線治療の併用の有無に関わらず、乳房の全切除と比較すると、その後の浸潤性乳癌のリスクを高めていました。ただ、累積の死亡リスクに関して比較すると、両者の治療法の有意な差は認められませんでした。

このように今回の大規模な検証において、非浸潤性乳管癌と検診以外で診断された事例は、検診で診断された事例と比較しても、その後の浸潤性乳癌のリスクや、乳癌による死亡リスクが高くなっていました。

最も早期の癌でも積極的に治療して

その長期予後を考えると、診断の時点では最も早期の癌であっても、積極的に治療することが重要と考えられます。その治療の選択肢としては、現時点では乳房全切除の方が、浸潤性乳癌の予防のためには有効性が高そうですが、より保存的な治療と比較して、長期の生命予後には差がない点から考えると、保存的治療も検討には値すると思われます。

今後こうしたデータにより、その治療ガイドラインが、よりアップデートされることを期待したいと思います。

記事情報

引用・参考文献

著者/監修医プロフィール

石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。

略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医

発表論文
・Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
・Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
・Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36
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