メニュー

2024.01.29

耳が遠いと認知症のリスクが増加。補聴器の使用で回避できる?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

記事画像

多くの方は年を取ると耳が遠くなりますが、補聴器を使う方は少数派なのだとか。補聴器を使うことは、健康にどんな影響があるのでしょうか。

今回ご紹介するのは、The Lancet Healthy Longevity誌に、2024年1月付で掲載された、補聴器の健康効果についての論文です。(※1)

▼石原先生のブログはこちら

聴力が低下すると認知症やうつ病のリスクが増える

聴力の低下は非常に一般的な頻度の高い健康障害です。

聴神経腫瘍など、特殊な病気に伴うものもありますが、その多くは加齢に伴う難聴や、騒音などに伴う難聴です。テレビの音を大きくしないと聞き取れなくなったり、会話を理解し難くなったりすることは、多くの方が年齢に伴って経験することです。

その意味では、特に加齢に伴う聴力の低下は、自然な加齢現象として、あまり病気のようには捉えない方も多いと思います。

しかし、最近の報告によれば、一定レベル以上の聴力の低下は、認知症やうつ病などのリスクを増加させ、総死亡のリスクも増加させると報告されています。(※2)この意味では、聴力低下はそれ自体が病気であって、治療が必要だということになります。

補聴器を使うと健康に影響はあるのか

一般的な聴力低下の治療は、補聴器の使用です。適切に補聴器を使用することにより、多くの聴力低下の患者さんにおいて、日常生活における不都合の多くを、軽減することが可能です。

ただ、実際には特に加齢による聴力低下の患者さんでは、機器を装着する煩わしさもあって、その使用継続の比率は、それほど高くはないと報告されています。

ここで問題なのは、補聴器を継続的に使用することにより、聴力低下の患者さんにおける予後の悪化、特に死亡リスクの増加が改善されるのかどうか、という点です。

実はそれを示す信頼のおけるデータは、あまりないのが現実です。

補聴器使用が生命予後へ与える影響を検証

そこで今回の研究では、アメリカで一般住民9885名を対象とした、継続的健康調査のデータを活用することで、聴力低下に対する補聴器の使用が、生命予後に与える影響を検証しています。ここでの聴力低下は、会話レベルの周波数で25デシベル以上の低下と定義されています。

対象年齢は20歳以上の男女で、年齢の平均値は48.6歳です。

中間値で10.4年の観察期間中に、そのうちの14.7%の罹患率で聴力低下が発症、トータルな死亡率は13.2%でした。

聴力低下と診断された人のうち、継続的に補聴器を使用していたのは12.7%に過ぎず、聴力低下のない人と比較した、聴力低下の人の観察期間中の総死亡のリスクは、他の関連する因子を補正した結果として、40%(95%CI:1.21から1.62)有意に増加していました。

ここで継続的に補聴器を使用していた人は、聴力低下があっても使用していなかった人と比較して、他の因子を補正した死亡リスクが、24%(95%CI:0.60から0.95)有意に低下していました。その一方で補聴器の継続的でない使用は、不使用の場合と有意な違いがありませんでした。

補聴器使用者は死亡リスクが低下

記事画像

このように継続的な補聴器の使用は、その後の健康寿命の維持に有効な可能性があり、今後こうしたデータを積み重ねることにより、補聴器の適切な使用の有効性が、確認されることを期待したいと思います。

記事情報

引用・参考文献

著者/監修医プロフィール

石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。

略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医

発表論文
・Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
・Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
・Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36
© DeSC Healthcare,Inc.

あわせて読みたい