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2021.10.25

10代男性が高リスク。ファイザーワクチン副反応の急性心筋炎とは?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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新型コロナウイルスのワクチン接種後の有害な副反応として、急性心筋炎が挙げられています。では、この急性心筋炎は、どれくらいの年代にどの程度起こるものなのでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、the New England Journal of Medicine誌に、2021年10月6日ウェブ掲載された、新型コロナウイルスワクチン接種後の、急性心筋炎リスクについての論文です。(※1)この問題はこれまでにも何度か記事にしています。(※2,※3,※4)

▼石原先生のブログはこちら

ワクチン接種後に急性心筋炎が起こる確率は?

ファイザー・ビオンテック社とモデルナ社による、2種類の新型コロナウイルスワクチンが、少なくとも短期的には高い有効性を持つことは、これまでの膨大な臨床データで実証された事項です。

その副反応についても重篤なものが少ないことは、これもほぼ確認されていると言って良いのですが、このワクチンにやや特異的な有害事象として、指摘されているのが急性心筋炎です。

この有害事象は当初はモデルナワクチンの2回接種後に、10代の男性のみに起こる現象として紹介されましたが、その後ファイザー社のワクチンでも同様の現象は見られることや、女性や20代以上の年齢層においても、頻度は少ないものの発症事例自体はあることが明らかになってきました。

イスラエルでワクチン接種後の急性心筋炎の確認事例を検証

今回のデータはイスラエルの国レベルの疫学調査によるもので、2020年12月20日から2021年5月31日の間に、ファイザー・ビオンテック社の新型コロナワクチン接種後、初回接種から21日以内、2回目接種から30日以内に発症した急性心筋炎の確認事例を、それ以外の時期の報告頻度と比較検証しているものです。

その結果、対象期間中に283の急性心筋炎事例が報告されていて、そのうちの142例はファイザーワクチン接種後に発症しています。

そのうち診断が確実かそれに近いものが136例で、その95%に当たる129例は軽症でした。1例のみ劇症型の死亡事例がありました。

ワクチン後の発症事例は1回目接種より2回目接種において、年齢は16から19歳がそれより高い年齢層より多くなっていました。

特に10代後半の男性が高リスク

標準的な急性心筋炎の発症率と比較して、ワクチン接種後の発症リスクは5.34倍(95%CI:4.48から6.40)と高く、特に16から19歳の男性では、発症リスクは13.60倍(95%CI: 9.30から19.20)と最も高くなっていました。

そのリスクは、2回目のワクチン接種後30日以降においても、ワクチン未接種者と比較すると2.35倍(95%CI: 1.10 から5.02)と有意に高く、16歳から19歳の男性では8.96倍(95%CI:4.50から17.83)と最も高くなっていました。

このようにファイザー社のワクチンにおいても、10代の男性においては急性心筋炎の発症リスクが、特に2回目接種後に増加することは間違いのないことであるようです。

ほとんどは軽症だが、可能性を知っておくことは必要

その発症率自体は、500万人以上のワクチン接種で136例という低いもので、その重症度も軽症が殆どなので、ワクチン接種の安全性を揺るがすようなものではありませんが、こうした事例が特に10代の男性において多く発症するという事実は、接種者も医療従事者も常に意識する必要がありますし、ワクチンに関わる医療者の1人として、その可能性を常に疑いながら、診療に当たりたいとは思っています。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36