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2018.07.04

飲酒量と心血管疾患リスクは関係ある?【KenCoM監修医・最新研究レビュー】

KenCoM監修医:石原藤樹先生

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冷たいビールが美味しい季節、つい酒量が増えてしまうという方もいるのでは?
お酒は体にいいという説もあれば、そうでもないという説も耳にします。実際どちらが正しいのでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにKenCoM監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、KenCoM読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、2018年のBritish Medical Journal誌に掲載された、飲酒量と心筋梗塞や脳卒中の関係についての論文です。(※1)

▼石原先生のブログはこちら

飲酒量と病気リスクの関係とは

どれくらいのアルコール量が一番健康にいいのか?

お酒の量と病気との関係については、色々な意見があります。

大量のお酒を飲んでいれば、肝臓も悪くなりますし、心臓病や脳卒中、高血圧などにも、悪影響を及ぼすことは間違いがありません。

ただ、アルコールを少量飲む習慣のある人の方が、全く飲まない人よりも、一部の病気のリスクは低くなり、寿命にも良い影響がある、というような知見も複数存在しています。

日本では厚労省のe-ヘルスケアネットに、日本のデータを元にして、がんと心血管疾患、総死亡において、純アルコールで平均23グラム未満(日本酒1合未満)の飲酒習慣のある方が、全く飲まない人よりリスクが低い、という結果を紹介しています。(※2)

その一方で、昨年のメタ解析の論文によると、確かに飲酒量が1日アルコール23グラム未満であれば、機会飲酒の人とその死亡リスクには左程の差はないのですが、1日1.3グラムを超えるアルコールでは、矢張り死亡リスクは増加する傾向を示していた、というようなデータが紹介されています。(※3)

他にも複数のデータやメタ解析が存在していますが、1日20グラムくらいまでのアルコールが、健康上大きな問題がなさそうだ、という点では一致しているものの、より多い量のアルコールの影響や、少量のアルコールは健康に良いのか、というような点については、その意見はまだ様々です。

大規模疫学データを使い、アルコール量と心血管疾患リスクの関連を検証

これまでの疫学データの1つの問題点は、その登録時の飲酒量でのみ議論が行われていて、長期間の累積の飲酒量などは判断されていない、ということです。

そこで今回の研究では、ヨーロッパ10カ国で行われた、癌と食事についての大規模な疫学データを活用して、アルコールの摂取量と心血管疾患のリスクとの関連を、登録時の飲酒量と累積の飲酒量、またお酒の種類や病気の細かい区分毎に、これまでより詳細な検証を行っています。登録時に心血管疾患のない、トータル32549名が対象となっています。

虚血性心疾患の発症リスクは、飲酒量が多くても低い

その結果、1日60グラムを超える比較的多い飲酒量においても、飲酒量が多いほど、非致死性の虚血性心疾患の発症リスクは低下していました。
1日12グラムのアルコール当たり、そのリスクは6%程度低下していました。

致死性の虚血性心疾患については、1日0.1から4.9グラムというあまりお酒を飲まない群と比較して、1日15.0から29.9グラム摂取している群は、35%(95%CI: 0.53から0.81)と最もそのリスクは低下しており、それより少なくても多くても、そのリスクは増加していましたが、1日30.0から59.9グラムという、結構多い量の飲酒をしている群でも、そのリスクはあまりお酒を飲まない群より低い傾向にありました。

脳卒中の発症リスクは、飲酒量が多いほど高い

一方で脳卒中に関して見ると、飲酒量が多いほどその発症リスクも高い、という相関が認められました。非致死性脳卒中では1日アルコール12グラム当たり4%、致死性脳卒中では5%、それぞれリスクは増加していました。
この傾向は虚血性梗塞でも出血系梗塞でも同様でした。

以上のような心血管疾患リスクと飲酒量との関連は、登録時の飲酒量を用いたものですが、それを累積の飲酒量を平均化したもので行っても、その結果はほぼ同一になりました。
アルコールの種類による検討では、ビールは非致死性脳卒中のリスクを増加させましたが、ワインのみではそうした傾向は有意ではありませんでした。

このように、同じ心血管疾患であっても、虚血性心疾患と脳卒中には違いがあって、非致死性虚血性心疾患では飲酒量が多いほど、そのリスクは上昇し、致死性虚血性心疾患に関しては、1日20グラムくらいが最もリスクが低下します。
その一方で脳卒中は少量の飲酒でも、そのリスクは増加していて、脳卒中の場合にはビールとワインで、リスクは異なるという可能性があります。

アルコールは一日20グラム以内にとどめるのが無難

ここからどのような結論を導きだすのかは、なかなか難しいところですが、アルコールと健康との関係は一筋縄ではいかないということと、それでも1日20グラムまでのアルコール量であれば、概ね大きな健康上の問題は生じない、という点は事実と考えておいて良いように思います。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36