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2022.12.29

リポ蛋白(a)とは?脂質異常症の新薬の有効性について【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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脂質異常症は血液中に含まれる脂質が増えてしまい、動脈硬化を進行させるリスクが高い病気。
今回ご紹介するのは、the New England Journal of Medicine誌に、2022年11月6日掲載された、遺伝子を活用した脂質異常症の新薬の有効性についての論文です。

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血液中の脂質の1つである「リポ蛋白」

リポ蛋白(a)というのは、比較的簡単に測定可能な血液中の脂質の1つで、動脈硬化性疾患に関連する指標として、健康保険でも測定が可能です。

ただ、その数値の意味と、高コレステロール血症の治療における意義については、まだあまり一定の評価がありません。

そもそもリポ蛋白(a)というのは一体何でしょうか?

血液の中をコレステロールや中性脂肪などの脂質を移動させるため、脂質はアポ蛋白という蛋白質と結合して、リポ蛋白という形態を取っています。

要するに、荷台にコレステロールなどの荷物を載せた、トラックのようなものがリポ蛋白です。

血液中のリポ蛋白(a)濃度が高いと虚血性心疾患が起きやすい

このリポ蛋白にも種類があって、俗に悪玉コレステロールと言われているLDLコレステロールは、LDLというリポ蛋白の荷台に載っているコレステロールの量のことです。

このLDLは主にアポB100というアポ蛋白が脂質と結合したものですが、アポB100以外にアポリポ蛋白(a)という別の蛋白が、一緒に結合したLDLの一種が存在していて、これをリポ蛋白(a)と呼んでいるのです。

このアポリポ蛋白(a)というのは、プラスミノーゲンという血栓などを溶解する仕組みに、関連する物質と非常に良く似た構造を持っています。

通常血液中のリポ蛋白(a)濃度は、20mg/dL以下に保たれていますが、その血液濃度が高い体質があり、そうした人では狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患が、多く発症するということが確認されています。

リポ蛋白(a)の濃度は、ほぼ遺伝で決まる

非常に興味深い点は、この血液中のリポ蛋白(a)濃度は、食事などの影響はあまり受けず、基本的にその高低は、アポリポ蛋白(a)をコードしている遺伝子のタイプで決まっている、ということです。

高リポ蛋白(a)血症は、ほぼ全て遺伝で決まっているのです。

最近このリポ蛋白(a)濃度とは別個にそのサイズ(粒子径)も、遺伝子レベルで決定されていて、より小さな粒子径のリポ蛋白(a)が、より心血管疾患のリスクが高い、という知見も発表されています。

このようにリポ蛋白(a)は、LDLコレステロール濃度などとは独立した、心血管疾患のリスク因子であると想定されるのですが、これまでリポ蛋白(a)を有効に低下させるような治療は、開発されていませんでした。

それが最近新しいメカニズムによる新薬が幾つか開発され、今臨床試験が施行されています。

その1つが今回の論文で臨床試験結果が報告されている、オルパシランです。

新薬オルパシランの有効性と安全性を検証

この薬は低分子干渉RNAと言われる薬剤の1つです。低分子の相補的なRNAを使用することにより、目標とする遺伝子の発現を抑制するのです。

この場合リポ蛋白(a)の合成に関わる遺伝子の発現を、強力に抑制する効果が期待されます。

今回の臨床試験においては、心血管疾患の既往のあるリポ蛋白(a)高値の患者に対して、複数の用量のオルパシランを、12週もしくは24週毎に皮下注射で使用し、その有効性と安全性を検証しています。

その結果、通常用量で90%を超えるリポ蛋白(a)濃度の低下が、持続することが確認されました。36週の時点までの検証では、主な有害事象は注射施行部位の疼痛などでした。

画期的な新薬になる可能性が

これはまだ用量を決定するための臨床試験の段階なので、まだその長期の安全性などについては判断は出来ませんが、これまでにない画期的な新薬の1つであることは間違いがなく、今後のデータの積み重ねを注視したいと思います。

記事情報

参考文献

著者/監修医プロフィール

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36