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2021.03.10

難聴が認知症や鬱のリスクに。耳が遠くなる原因と対処法を知る【加齢性難聴・前編】

kencom公式ライター:森下千佳

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40歳ごろから始まり、徐々に進行する加齢性難聴。聴力の低下は気付きにくいうえに、「年のせいだから」と放置する方が多いようですが、世界的には「難聴は、認知症の予防可能なリスクのうち最大の因子」と知られるようになってきています。つまり、「難聴は放置すると、ボケやすくなる」ということ。
なぜ耳が遠くなるとボケやすくなるのかについて、済生会宇都宮病院耳鼻咽喉科 主任診療科長・聴覚センター長の新田清一先生に伺いました。

新田 清一(しんでん・せいいち) 先生

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済生会宇都宮病院耳鼻咽喉科主任診療科長・聴覚センター長
専門は、聴覚医学(耳鳴り、補聴器、小児難聴など)、耳科学(中耳手術、人工内耳診療など)
1994年、慶應義塾大学医学部卒業後、同大学医学部耳鼻咽喉科学教室入局。同教室助手、横浜市立市民病院耳鼻咽喉科副医長などを経て04年より現職。2010年、ヨーロッパにて臨床留学。
慶應義塾大学医学部耳鼻咽喉科学教室客員講師、日本聴覚医学会代議員、日本耳科学会代議員、日本耳鼻咽喉科学会栃木県補聴器キーパーソンなどを兼務。

加齢性難聴とは?

ひそひそ声や電子レンジの音が聞き取りにくくなる

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加齢性難聴とは、加齢によって起こる難聴で、年齢以外に特別な原因がないものです。一般的には40代から始まり、65歳を超えると急に増加するといわれています。誰でも起こる可能性があり、60歳代前半では5~10人に1人、60歳代後半では3人に1人、75歳以上になると7割以上との報告もあります。

難聴は、聞こえの程度により軽度、中等度、高度、重度に分けられます。一般的に、聴力検査で中等度難聴(40dB以上)と診断されたら、補聴器の装着を勧められます。これは、近くでひそひそ声で話しかけられても気づかなかったり、難聴ではない人がうるさいと感じるほどの音量でないとテレビの音が聞こえづらい、というレベルの聴力です。加齢性難聴の多くは、両耳に起こります。特に、高い音が聞こえにくくなり、電子レンジや電子体温計の音が聞き辛くなる事が多いようです。少しずつ進行していくため、初めは気がつかないこともよくあります。

加齢性難聴の原因は?

加齢性難聴の原因を知るために、まずは音が聞こえる仕組みを理解しておきましょう。

加齢性難聴は「音が聞こえる仕組み」が弱ってくることで起こる

(出典)新田清一著、小川郁監修”難聴・耳鳴りの9割はよくなる”(マキノ出版)p25を元に編集部作成

(出典)新田清一著、小川郁監修”難聴・耳鳴りの9割はよくなる”(マキノ出版)p25を元に編集部作成

耳は外側から、外耳、中耳、内耳に分けられています。外耳から入った音は、中耳を通って、内耳にある「蝸牛(かぎゅう)」と呼ばれる、渦巻き状の音を感じる器官に伝わります。蝸牛には、音を感じるセンサーの「有毛細胞」があり、鼓膜から伝わってきた音の振動をキャッチして電気信号に変えて脳へ送る役割をしています。この電気信号が脳に伝わって、初めて私たちは「音」として認識します。

耳は「音を伝える伝達器官」にすぎず、実際に音を聞いているのは「脳」。つまり、「聞き取る力=脳の力」というわけです。

加齢性難聴は、この聞こえる仕組みのどこかに障害が生じることで起こります。
蝸牛の中の「有毛細胞」は、正常な状態では整然と並んでいますが、加齢とともに数が減ったり、壊れるなどして次第に失われていきます。また、蝸牛から脳に電気信号を伝える神経細胞の数も加齢によって減少します。そうなると働きそのものも悪くなるため、音の情報が脳に正確に伝わらず、脳自体の働きも衰え、電気信号を音や言葉として理解する能力も低下していきます。こうした複合的な要因で、刺激の少ない状態に慣れてしまった脳を、私は「難聴の脳」と呼んでいます。

耳の老化にも個人差がある

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歳を取っても元気で若々しい方と、そうでない方がいるように、耳の老化にも個人差があります。体力や若さは、運動をしたり食事に気をつけたりという事で差が出ますが、耳の老化でもっとも影響がある因子は、遺伝的な要因なのだそう。そこに糖尿病、喫煙、動脈硬化などのリスクが加わると、老化がより早くなると言われていますが、後天的な要因の中でも難聴を起こす最も大きなリスクと考えられているのが、騒音です。

騒音、イヤホンでの長時間聴取は難聴リスクに!

一般社団法人日本耳鼻咽喉科学会http://www.jibika.or.jp/owned/hwel/news/004/より

一般社団法人日本耳鼻咽喉科学会http://www.jibika.or.jp/owned/hwel/news/004/より

工事現場やライブハウスなど、騒がしい環境で長年働いていると、有毛細胞の損傷が進行しやすく、より早い年代から難聴が起こることが多いようです。また、若者の携帯音楽プレーヤーやスマホによる長時間、大音量での習慣的な音楽聴取は難聴のリスクとして現在、世界的な問題になっています。世界保健機関(WHO)は世界人口の約半数にあたる11億人に難聴のリスクがあると指摘していて、このままの習慣が続けば、日本でもより若い世代からの難聴患者が増えていくのは確実だと思います。

一度壊れた聴力機能は二度と元には戻らないので、現在のところ根本的な治療法はありません。

難聴を放置すると、認知症のリスクに

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難聴の怖いところは、単に耳の聞こえの問題だけでなく、認知症とも大きな関わりがあることです。2017年のアルツハイマー病協会国際会議において、「認知症の約35%は、糖尿病や、高血圧、うつ、肥満、難聴などの予防可能なリスクに起因しているが、なかでも、難聴は認知症の最も大きな危険因子である」という報告がありました。ただし先天性難聴や一側性難聴はこの限りではありません。

難聴のために、脳に伝えられる情報量が減少したり、音による脳への刺激が少なくなると、脳の萎縮や神経細胞の弱まりが進み、それが認知症の発症に大きく影響することが明らかになってきました。また、これまで人付き合いがよく、おしゃべりが楽しみだったような人が、難聴のためにコミュニケーションがうまくいかなくなると、人との会話をつい避けるようになってしまいます。そうすると、次第に抑うつ状態に陥ったり、社会的に孤立してしまう危険もあります。実はそれらもまた、認知症の危険因子として考えられるのです。

加齢性難聴をセルフチェックしてみよう!

加齢性難聴は、少しずつ進んでいくことが多いため、自分ではなかなか気がつきにくいものです。「最近、ちょっと聞こえにくいな」と思ったら、下のセルフチェック表で、ご自身の聞こえ方を確認してみましょう。どれも、日常生活のなかで簡単に確かめられるものです。また、聞こえない本人よりも、周りの方が気がつくこともあります。ぜひ、ご家族で一緒になってチェックしてみましょう!

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いかがでしたか?チェックリストで当てはまる項目が多くなったら、念のため専門医を受診してください。自己評価はどうしても甘くなりがちですから、周囲の方が病院受診を後押しするなどの協力も大切です。

早期発見&早期治療で加齢性難聴と向き合おう

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「聞き取る力=脳の力」とお伝えしましたが、耳の力が落ちていくと、それだけ脳の力が弱くなってしまいます。数日動かなければ筋肉が衰えるといわれるように、脳も使わないと認知機能が落ちてしまい、聞こえてくる音の正体を認識できないという状態になってしまいます。

加齢によって聴く力が落ちていくことは防げないけれど、聴力の低下に合わせて「補聴器」で音を脳にしっかり届けることをしていれば、脳の力を維持することができるのです。一度落ちてしまった脳の力はなかなか戻りません。だからこそ、早期発見&早期治療が大切なのです。

後編では加齢性難聴に欠かせない、補聴器について解説いたします。

▼後編の記事はこちら

著者プロフィール

■森下千佳(もりした・ちか)
フリーエディター。お茶の水女子大学理学部卒。テレビ局に入社し、報道部記者として事件・事故を取材。女性ならではの目線で、取材先の言葉や見過ごされがちな出来事を引き出す事を得意とする。退社後、ニューヨークに移住。当時、日本ではなかなか手に入らなかったオーガニック商品を日本に届けるベンチャー企業の立ち上げに関わる。帰国後、子宮頸がん検診の啓発活動を手がける一般社団法人の理事を経て現職。一児の母。

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