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2021.10.06

早ければ40代から始まる軽度認知障害(MCI)。早期発見&予防法とは【軽度認知障害・後編】

kencom公式ライター:森下千佳

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認知症は、一度発症すると後戻りはできません。そのため、早く気がつき、健康なときから対策を行うことが最善策。早い人では、40代から軽度認知障害(MCI)の兆候が見られますから、この機会にぜひ一度、セルフチェックをしてみましょう!お話を伺ったのは、前回に引き続き、筑波大学名誉教授の朝田隆先生です。

早期診断には診断が不可欠!MCIの診断とは?

一般的には、「問診」「認知機能を調べるテスト」「脳の画像検査(MRIなど)」を行い、認知機能がどの程度なのかを評価をします。また、必要に応じて血液検査などを行ない、身体的な異常の影響がないかを確認します。

「認知機能を調べるテスト」は、記憶力、言語、遂行、視空間など、個々の認知機能の程度を評価しますが、テストを受ける時の状態や環境によって結果が変わってきてしまうことがあります。そのため、診断をする上で非常に大事なのは「問診」で、患者さんの生活全般の話から「自立できているか否か」を診断すること。総合的な判断が必要になるので、本人だけでなく、ご家族が伝える情報も非常に大切な判断材料になります。

今日から始めたい、4つの認知症予防法

これからご紹介する認知症予防は、「軽度認知障害(MCI)」という診断を受けているかどうかに関わらず、日々の生活に取り入れてほしいものばかりです。認知機能の維持や向上は、できるだけ早くから取り組みを始めることが、認知症予防に繋がるからです。

認知症の発症には、避けようのない遺伝的な要因だけでなく、生活習慣も大きく関係しています。高血圧や糖尿病などの生活習慣病で、血管の障害が起きやすくなると、脳の働きに悪影響を及ぼしますし、中年期に高コレステロール血症だった人は、アルツハイマー病を発症するリスクが高まるという報告もあります。生活習慣病を招くような生活スタイルを見直すことは、認知症予防には不可欠です。

認知症の予防に大切な要素は4つ。「運動」「栄養」「休養」「知的刺激」です。

【認知症予防その1】 積極的に「運動」を取り入れる

運動は、”最も確かな認知症の予防因子”です。脳の働きに、直接良い影響があるだけでなく、認知症のリスクを高める生活習慣病の改善にもつながります。

認知機能アップに効果的な運動の方法は3種類で、「有酸素運動」「筋肉トレーニング」「バランス運動」を組み合わせること。
「有酸素運動」は、水泳、サイクリング、縄跳びなど、無理なく続けられるものなら何でも良いですが、一般的に取り入れやすいのは、「早歩き」です。犬の散歩などのゆったりしたペースではなく、少し息が上がるぐらいの強度で、歩幅を大きく手を振りながら歩くと良いと思います。週に3回以上、1回20分を目安に続けられると理想的です。

「筋肉トレーニング」は、身体の筋肉の中で最も大きな面積を占める太ももの筋肉(大腿四頭筋)と、お腹の筋肉を強化するトレーニングが、効率が良くおすすめです。1日5分程度を目標に、スクワットや腹筋などを頑張りましょう。少し負荷を感じるような強度で、毎日続ける事が大切です。

3つ目は「バランス運動」。片足を上げた姿勢を、左右それぞれ30秒間ずつ、安定してできるようにトレーニングをしましょう。平衡感覚を鍛えることは、認知機能アップにつながるだけでなく、転倒予防にも繋がります。

【認知症予防その2】食生活は 「まごわやさしい」がキーワード

バランスの良い食生活のためには、昔からよく知られている「まごわやさしい」を意識することが一番良いと思います。「まごわやさしい」は、豆・ごま(ナッツ類)・わかめ(海藻類)・野菜・魚・しいたけ(きのこ類)・いも(芋類)の7種類の食材の頭文字をとった語呂合わせで、この言葉を意識して食事をすることで、たんぱく質・ビタミン・ミネラル・食物繊維などをバランスよく摂ることができるというものです。

しかし、一人暮らしの場合などは、毎日、バランスの良い食事を用意するのは大変ですよね?その場合は、「まがわやさしいトッピング」を心がけましょう。例えば、お弁当に納豆や冷奴を足す。野菜サラダには、アーモンドやくるみ、シーチキンなどをトッピング。また、肉のおかずが続いた次の日は、魚や野菜が中心のメニューにするなど、無理なく続けられる、小さな心がけを忘れないようにすることが大切です。

「ポリフェノール」が多い食品を積極的に取り入れて

バランスの良い食事に加えて、抗酸化作用がある「ポリフェノール」が含まれる食品を取り入れるのも良いと思います。具体的には、鮭などの青魚、緑茶、ブラックチョコレート、ココア、ナッツ類など。
赤ワインもポリフェノールが高い飲み物ですが、飲み過ぎると逆に認知機能を低下させるリスクがあるので、一日グラスに2杯までを嗜む程度にしましょう。ただし、「これだけ食べていれば大丈夫」という食品はありませんので、「バランス良く、少しづつ」を長く続けていきましょう。

【認知症予防その3】7時間睡眠で、しっかり脳を休める

認知症予防には休息も非常に重要です。脳の疲れが取れないと、その働きも低下しやすくなるので、眠りの悩みは出来るだけ減らしておきたいものです。認知症予防に理想的な睡眠時間は「7時間」と言われています。「睡眠時間よりも睡眠の質が大事」とも言われてきましたが、近年では、ある程度の睡眠時間を確保しないと、脳がしっかりと休息出来ないという事がわかってきました。最低でも「7時間の睡眠」を目指しましょう。

もし、まとまった睡眠時間が確保できない場合は、日中に15分〜20分程度の短い昼寝を取ることも、認知症予防には効果的だと言われています。

【認知症予防その4】脳を刺激するために難聴を放置しない

難聴の人は、ない人に比べて認知症発症のリスクが2倍近く高いことがわかっています。音を聞き分けているのは、耳ではなく脳なので、難聴になると脳に伝わる信号があまり入らない状態になります。刺激が少なくなると、脳が働く機会が少なくなり、認知機能の低下へとつながるため、認知症の強力な危険因子となるのです。

それだけでなく、難聴になると、人との交流が減りがちになってしまうことも問題です。耳が遠くなると、会話がスムーズにいかなくなる為、どうしても遠慮をしたり、人の輪を避けがちになります。人間は社会的な動物なので、知能の大部分を人との交流の中で使っています。耳が遠くなることで、社会性がなくなると認知機能にも影響を与える為、「難聴」の治療は早めに取り組みましょう。

料理は最高の脳のトレーニング!芸術活動にも積極的に挑戦してみよう!

料理は、いくつもの手順を同時にこなす「デュアルタスク」の連続で、献立を考えて材料を揃え、調理することは、遂行能力、段取り能力を磨き脳の働きを促す、素晴らしいトレーニングです。この時、【認知症予防②】でご紹介したような、バランスの良い食事を作る事ができれば、一石二鳥ですね。

また、俳句や楽器の演奏や合唱、絵画や造形など、集中して1つのことに取り組むことも、脳の働きを高める方法の1つです。興味があるものがあれば、ぜひ挑戦してみましょう。

早期発見!「軽度認知障害(MCI)セルフチェック」

最近1カ月間の生活のなかで、ご自身やご家族、または身近な人に、以下の13の項目が当てはまるかどうかチェックしてみましょう。できれば、ご本人だけでなく、ご家族も一緒に確認すると安心です。

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【判定】
・チェックが0個〜2個・・・あまり心配しすぎることはありません。しかし、「以前はこんなことはなかったのに・・・」と感じるような変化は、認知機能が低下しているために起きている可能性があります。認知機能を維持するための取り組みは、全身の健康につながりますし、「始める時期が早すぎた」という問題が起こることはありません。ぜひ、これからご紹介しる「認知症予防」の取り組みを試してみてください。

・チェックが3個以上・・・年齢が高くなれば、若い頃と同じようにはいかなくなるものです。とはいえ、チェック項目が多いのは一定レベルよりも認知機能が低下している可能性があるので、早めに専門医に相談することをお勧めします。認知症の多くは、ある日突然発症するわけではありません。早い段階で変化に気がつくことができれば、対応策の幅が広がります。

自分や身近な人の状態に不安を覚えたら、どこに相談?

各都道府県には、認知症のより専門的な診断や治療を行う医療機関として指定を受けている「認知症疾患医療センター」があります。所在する区市町村の認知症医療・介護連携の推進役を担っている医療機関です。各都道府県にありますので、お住いの自治体に問い合わせてみましょう。また、公益社団法人「認知症の人と家族の会」のHPで紹介されている「全国もの忘れ外来一覧」や、日本認知症学会のH Pで公開している「全国の認知症専門医リスト」も参考になります。

認知症予防は、全身の健康管理につながるもの。一度発症すると後戻りはできないため、健康なうちから対策を行うことが最善策です。「自分にはまだ早い」と感じていても、将来の自分はもちろん、身近な家族のためにもぜひ覚えておいていただけたらと思います。

朝田 隆(あさだ・たかし)先生

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筑波大学名誉教授、東京医科歯科大学客員教授、医療法人社団創知会理事長

【プロフィール】
1982年東京医科歯科大学医学部卒業後、1982年石川県芦城病院、1983年東京医科歯科大学神経科精神科に勤務後、1988年英国オックスフォード大学老年科へ留学。1995年国立精神神経センター武蔵野病院精神科医長、2000年同院リハビリテーション部長、2001年筑波大学臨床医学系精神医学教授、2014年より東京医科歯科大学医学部附属病院特任教授を経て、2015年4月より現職。著書に「効く!「脳トレ」ブック」(三笠書房、2016)専門医が教える認知症(幻冬舎、2016)などがある

著者プロフィール

■森下千佳(もりした・ちか)
フリーエディター。お茶の水女子大学理学部卒。テレビ局に入社し、報道部記者として事件・事故を取材。女性ならではの目線で、取材先の言葉や見過ごされがちな出来事を引き出す事を得意とする。退社後、ニューヨークに移住。当時、日本ではなかなか手に入らなかったオーガニック商品を日本に届けるベンチャー企業の立ち上げに関わる。帰国後、子宮頸がん検診の啓発活動を手がける一般社団法人の理事を経て現職。一児の母。

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