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2020.04.14

新型コロナウイルスは無症候キャリアからも感染するのか?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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感染経路がわからないまま、新型コロナウイルスに感染した方が増えています。
咳や発熱のない無症状の患者でも、人に感染させる可能性があるのでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、JAMA誌に2020年2月21日ウェブ掲載された、新型コロナウイルス感染症の不顕性感染の可能性についてのレターです。

2月の報告なので、現在では周回遅れの感じも少しあるのですが、この問題についての現時点での知見を、まとめておきたいと思います。

▼石原先生のブログはこちら

無症状の患者からも感染するのか

新型コロナウイルス感染症(SARS-CoV-2)は、そのSARS原因ウイルスとの遺伝子の相同性から、肺炎などの下気道感染を起こしてから初めて、感染力が生じるという先入観を、流行の当初には専門家の多くも持っていました。

そのため、咳や発熱など下気道感染の症状が出現してから、患者さんを隔離することで、周辺への感染予防も可能と考えられていました。

ところが、その後の実際の感染の広がりからは、軽症で発熱などの症状のない不顕性感染の患者さんからも、人から人への感染が成立する可能性が示唆されました。

ただ、ここで問題となるのは、不顕性感染と思われても、実際にCT検査をしてみると、軽度の肺炎像が認められるケースがあるので、矢張り下気道感染が成立して初めて感染が成立するのか、それとも下気道感染がなくても感染が成立しているのか、そのどちらであるのか、ということです。

仮に肺炎があって初めて感染が起こるのであれば、疑いのある事例では症状がなくてもCT検査を行って、肺炎の有無をチェックすることにより、隔離の対象者を絞り込むことが出来ます。
その一方で上気道や腸管において、ウイルスが増殖することにより感染が起こるのであれば、現状長期間隔離する以外、感染の拡大を防ぐ方法はない、ということになります。

上記レターの発表以前において、CTで肺炎像が認められないような無症候性の感染者から、感染が成立するかどうかは不明でした。

無症状でも感染を広げる可能性は大

上記レターにおいては、20歳の無症候性キャリアの女性から、5名の家族への感染(クラスター)の事例を検証しています。

キャリアの女性は接触の時点で全くの無症状で、CTでも肺炎像はなく、他の家族に発熱などの症状が時点でも、最初の鼻腔からのPCR検査は陰性の結果が出ています。しかし、その後陽性が確認され、中国でパンデミック初期の事例であったことより、そのキャリアの女性が流行地域からウイルスを持ち込んだことが、ほぼ確実と推測されるため、この女性が無症状の状態で、家族の感染を広げた可能性が高いと考えられました。

現状の理解で言えば、キャリアの女性は下気道でのウイルス増殖はなく、上気道のみのウイルス増殖もしくは腸管でのウイルス増殖から、周囲に感染を広げたものと想定されます。PCR検査の偽陰性は、珍しいことではありません。

無症候性キャリアの感染可能性を判断する方法はない

現状はこうしたキャリアの周辺への感染可能性を、確実に判断するような方法はなく、感染が拡大した状況においては、人間同士の濃厚接触をなるべく減少させて、感染自体の収束を待つしかないのが実状なのです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36