メニュー

2021.03.10

医師に相談すべき?難聴をサポートする補聴器の選び方【加齢性難聴・後編】

kencom公式ライター:森下千佳

記事画像

世界的な研究によって、認知症の有力な危険因子とされている「加齢性難聴」。なんとかしようと考えて、補聴器を購入する方も多くいらっしゃいますが、残念なことに、そのほとんどの方が「うるさくて耐えられない!」「聞こえがよくならないので、やめてしまった」などと、諦めてしまうと言います。

なぜ、補聴器がうまく使えないのでしょうか?そこには、補聴器に対する多くの誤解や偏見があるからです。前編に続き補聴器治療で人生を取り戻した患者さんを見てきた、済生会宇都宮病院耳鼻咽喉科 主任診療科長・聴覚センター長・新田清一先生に、正しい補聴器選びと使用法、病院選びのコツなど聞きました。

周囲の音が聞こえにくいと感じたら病院へ!加齢性難聴の診断

記事画像

まず、難聴には加齢で起こるものの他に、病気が原因で起こるものあるため、「年のせいだからしょうがない」と自己判断で放置することは絶対にやめましょう。特に、急に聞こえなくなった場合や、片耳の聞こえが悪い場合は、病気の可能性があるので早めに耳鼻咽喉科を受診することをおすすめします。聴力検査や診察などにより、病気による難聴とわかれば、治療で聞こえるようになる可能性があります。

一方、加齢性難聴の場合は聴力を取り戻すことは出来ませんが、「補聴器の着用」や「人工内耳手術」などで聴力を補うことを検討します。前述の「補聴器の着用」が主になりますが、症状が改善しない場合や、重度の難聴の場合には、手術で人工内耳を入れる治療法を検討します。人工内耳とは、蝸牛に電極を埋め込み、電極を利用して音を電気信号に変え脳に伝える仕組みです。

いずれの場合にも、治療の開始が遅れることによるデメリットが多いので、自己判断せずに早めに診察を受けて治療を開始することが大切です。

記事画像

補聴器療法とは「難聴の脳」を鍛えるトレーニング

記事画像

今回は難聴の治療によく使われる補聴器について解説いたします。

補聴器は、刺激の少ない状態に慣れてしまった「難聴の脳」をつくるためのトレーニング道具です。補聴器で耳から脳に音を届け続けることによって、「静かな環境に慣れた難聴の脳」を、「不快感なく音を聴き続けられる脳」へと鍛えていきます。耳が聞こえる方は普段、エアコンや冷蔵庫、人の声など様々な音を聞いて生活しています。しかし、難聴の方は静かな状態で暮らしているので、補聴器をつけることによって急に周りの音が脳に届くと、「うるさい」と不快に感じてしまいます。調整を繰り返しながら、徐々にこの状態に慣れるようにトレーニングしていくのが、補聴器療法です。

自分にあう補聴器の正しい選び方

補聴器は診断&試聴&調整をした上で購入を!

記事画像

最近では、補聴器がインターネットなどで気軽に買えてしまうため、病院で検査をすることなく安易に購入する方が増えています。しかし、これでは改善する可能性は低いと言わざるを得ません。ちゃんと聞こえを補うためには現在の聴力のレベルにあった補聴器を購入することが不可欠です。患者さん自身の判断で、どの補聴器が最適かを判断することは難しいと思います。

補聴器を購入する前に耳鼻咽喉科を受診し、「補聴器が効果を発揮できる症状なのか」を診断してもらう必要があります。

その上で購入方法は、大きくわけて2つあります。
ひとつ目は、病院の補聴器外来で購入する方法です。医師の診断を受けて、言語聴覚士のフィッティングを受けた後、補聴器の聞こえに慣れるためのトレーニングをします。定期的に補聴器の効果を確認し、調整しながら効果が確認できたら購入します。 

次に、補聴器販売店で購入する方法です。「補聴器相談医」が患者さんの診察情報をまとめた書類を持参して、認定補聴器技術者と相談しながら、補聴器を選びます。

どちらで購入する場合でも、まずは、3ヵ月ほど補聴器を貸し出してもらい、試聴と調整を繰り返し、補聴器の効果を確認してから購入するのが理想的です。

補聴器を選ぶ時のポイント

記事画像

その1:自分の聴力にあっていて、出力に余裕があるものを

補聴器を選ぶときにもっとも大切なのは、自分の聴力にあったものを選ぶことです。例えば、高度や重度の難聴の人が出力の小さな補聴器を使っても、十分な聞こえは得られず補聴器を装着する意味がなくなってしまいますし、逆に必要以上に大きい音が入ってしまうと、耳の神経を壊してしまって難聴が悪化してしまうこともあります。また、難聴は加齢に伴い進んでいきます。将来聴力が低下しても対応できるよう、出力に余裕のあるものを選んでおくと良いと思います。

その2:ライフスタイルに合わせてデザインを選ぼう

補聴器の種類には、大きく分けて「耳あな型」「耳かけ型」「ポケット型」の3タイプがありますが、どのタイプも技術の進化で小型化が進み、利便性もファッション性も向上しています。中でも、もっとも多くの方が使用している「耳かけ型」は、耳の後ろにかけるタイプで、全ての難聴のレベルに対応していて、機能や種類のバリエーションが豊富です。

補聴器の値段は様々ですが、まずは一番基本的な機能が備わっている10万円前後の機種をお勧めします。高額な補聴器には、雑音やハウリングの抑制、携帯電話と連携できる機能など新しい機能が搭載されていて便利ですが、基本的な補聴器の性能は大きく変わりません。これらのことを鑑みて、自分の好みやライフスタイルにあった機種を選ぶと良いと思います。

初めて補聴器を使う際の注意点

記事画像

眼鏡をかけると、すぐに見えるようになるイメージで、「補聴器をつければ、すぐに聞こえるようになるはず」と思われがちですが、そうではありません。「難聴の脳」を補聴器の聞こえに慣らすためのトレーニングが必要不可欠です。トレーニングと言っても、特別なことをするわけではありません。一日中補聴器をつけて、普通に生活をすることを3ヵ月間続けてもらいます。

最初は必要な音量の7割程度から始めて、少しずつ慣らしながら音量を上げていきます。大体開始して初月が一番辛く、音がうるさいと感じますが、その時期を頑張れば、必ず慣れていきます。脳が昔の状態を思い出すまでのリハビリテーションの期間なので、諦めずにトレーニングを続けましょう。

加齢性難聴の予防法

記事画像

難聴予防として最も有効なのは、「大きな音を長時間聞かない」ことです。例えば、ヘッドフォンやイヤホンで音楽を楽しむ場合は、外の音が聞こえ、会話が普通の声(大きな声にならない)で出来るくらいの音量にしましょう。WHOは安全な音量として80dBを推奨しています。利用限度も一週間に40時間以内にすべきとしていますので、一つの目安にしてください。また、コンサートに出かけたり、騒がしい場所で過ごした後は、静かに耳を休ませましょう。工事現場など、騒がしい環境に身を置かざるを得ない人は、耳栓をするなど、可能な範囲で対策をすると良いでしょう。また、聴力検査を定期的に受けて、聴力の変化を知っておくことも大切です。

楽しく豊かな人生をために大切な「聞こえる」ということ

記事画像

患者さんの中には、耳垢が詰まって聞こえが悪くなっているのにもかかわらず、難聴と勘違いして販売店で高い補聴器を買ってしまった方もいます。聞こえが悪くなったら、まずは耳鼻科を受診すること。他の病気ではない事を診断してもらうことが、最低条件です。その上で、安心して補聴器療法を行うためには、「補聴器相談医」のいる耳鼻科を受診することをお勧めします。全国には4000人ほどの耳鼻科医の補聴器相談医がいます。

下記の日本耳鼻咽喉科学会が認定する「補聴器相談医」の一覧から、お近くの病院を探してみてください。加齢性難聴は進行するため、購入した後も、定期的に聴力検査や、補聴器の調整、メンテナンスなどを行う必要があります。病院選びの際には、「通いやすい病院か」「しっかりと調整をしてくれるか」「販売店との連携があるか」なども確認しておきましょう。

難聴が原因でやりたいことが出来ずに家に閉じこもっている方、耳が聞こえさえすれば楽しく豊かに暮らせる方がたくさんいます。私は、人間の幸せは、コミュニケーションにあると思っています。聞き取れなければ、コミュニケーションを取ることが出来ませんよね?そういう意味で、「耳は生き方に関わること」です。聞こえを取り戻す方法はあります。今、耳の聞こえによって、辛い思いをされている方は、ぜひ正しい補聴器トレーニングに取り組んで欲しいと思います。

新田 清一(しんでん・せいいち) 先生

記事画像

済生会宇都宮病院耳鼻咽喉科主任診療科長・聴覚センター長
専門は、聴覚医学(耳鳴り、補聴器、小児難聴など)、耳科学(中耳手術、人工内耳診療など)
1994年、慶應義塾大学医学部卒業後、同大学医学部耳鼻咽喉科学教室入局。同教室助手、横浜市立市民病院耳鼻咽喉科副医長などを経て04年より現職。2010年、ヨーロッパにて臨床留学。
慶應義塾大学医学部耳鼻咽喉科学教室客員講師、日本聴覚医学会代議員、日本耳科学会代議員、日本耳鼻咽喉科学会栃木県補聴器キーパーソンなどを兼務。

著者プロフィール

■森下千佳(もりした・ちか)
フリーエディター。お茶の水女子大学理学部卒。テレビ局に入社し、報道部記者として事件・事故を取材。女性ならではの目線で、取材先の言葉や見過ごされがちな出来事を引き出す事を得意とする。退社後、ニューヨークに移住。当時、日本ではなかなか手に入らなかったオーガニック商品を日本に届けるベンチャー企業の立ち上げに関わる。帰国後、子宮頸がん検診の啓発活動を手がける一般社団法人の理事を経て現職。一児の母。

この記事に関連するキーワード