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2023.07.02

SNSで心を消費していませんか?止まらない承認欲求の負のループに陥らないために必要なこと【働く人のこころ処方箋】

kencom公式:精神科医・井上智介

令和2年労働安全衛生調査(実態調査)によると、過去1年間にメンタルヘルス不調を理由に連続して1ヵ月以上休業した労働者又は退職した労働者がいた事業所割合は、平均で9.2%でした。うつ病などのメンタル不調は、現代では誰にでも起こりうる身近な病です。

本連載『働く人のこころ処方箋』では、産業医・精神科医・健診医として活躍している井上智介先生に、心の健康を保つ秘訣を教えていただきます。

©️ikue takizawa

©️ikue takizawa

SNS疲れに潜む承認欲求

Instagram、TikTok、Twitter、Facebookなど、多くの人がSNSを使っている現代。楽しい反面で“SNS疲れ”が話題になることが増えています。このSNS疲れには、承認欲求というキーワードが潜んでいます。

あなたが投稿した写真や文章にたくさんの“コメント”や“いいね”がつくと、自分が認められた気になるので心地いいですよね。しかしSNSによって満たされる承認欲求は相手に主導権があります。相手がコメントやいいねをして始まることであり、自分ではコントロールができません。

また、厄介なことに、SNSで承認欲求が満たされても、すぐに下がってしまうので、すぐに次の承認を求める傾向があります。

コントロールできず、すぐに下がってしまう不安定な満足度だからこそ、SNSでは“周りから承認されやすい自分”や”周りが承認したくなる自分”を作り出してしまいがちです。でも、ある時に、SNSで承認されている自分の姿が本来の自分とはかけ離れていることに気がつき、自分自身が一体何者なのかも分からなくなってきます。

やめる難しさと不安

「それならSNSをやめればいい」と思う方も多いかもしれませんが、現代のSNSは情報の入り口だったり、新しい人間関係がスタートするきっかけになることも珍しくなく、簡単にやめられるものではありません。そもそも、人間は誰にでも承認欲求があるので、それ自体も悪いことではありません。

自分自身が何者なのかという答えも、他者と接することではじめて見えてきます。誰しも「字がきれいだね」「繊細なところがあるよね」など他者から言われたことで、自分の個性に気がつき、アイデンティティが形成される経験を持っているでしょう。その意味で、人と接することやSNSを全て断つことは、より自分自身が何者なのか分からない不安を大きくしてしまうだけなのです。

相手も自分も“道具”になって疲れていく

とくに自己評価が低くて自分に自信を持てない人のなかには、SNSを利用して他人からの評価で自分の価値を補完する人がいます。ただ、その姿勢が過熱すると、相手を自分の承認欲求を満たしたり、アイデンティティを作り出してくれる道具として扱ってしまう危険性があります。

この状態に気がついたとき、その相手もまた、自分に対してSNSでのいいねやコメントを潜在的に求めている可能性に意識が向いて、自分という存在も相手の承認欲求を満たすための道具になっていると思ってしまう…こうして、SNS特有の人間関係の疲れは加速していくのです。

他者への期待を捨て、今の自分を受け入れよう

SNS疲れを解消させるためには、他人から見えている自分のイメージ像に頼らないようにすることが大切です。

SNSに投稿している光り輝いて他人から承認してもらいやすい姿は、自分という人間のごく一部分であり「本当はもっとダメなところがいっぱいあるよなぁ」と自ら積極的に受け入れること。この意識が「自分をこう見て欲しい」という他者への期待を捨てることにつながり「あなたは、私の承認欲求を満たすための道具ではない」というメッセージにもなり、相手の自由を尊重することになります。

そして、相手の自由を尊重すればするほど、あなた自身も自由を手に入れられて、SNS上にある相手の投稿物への反応も自由になり、SNSとも上手く付き合っていけるのです。

記事情報

引用・参考文献

著者プロフィール

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井上智介(いのうえ・ともすけ)
産業医・精神科医・健診医。
兵庫県出身。島根大学を卒業後、大阪を中心に精神科医・産業医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、一般的な労働の安全衛生の指導に加えて、社内の人間関係のトラブルやハラスメントなどで苦しむ従業員にカウンセリング要素を取り入れた対話重視の精神的なケアを行う。精神科医としてはうつ病、発達障害、適応障害などの疾患の治療だけではなく、自殺に至る心理、災害や家庭、犯罪などのトラウマケアにも注力。SNSや講演会などでも「ラフな人生をめざすこと」を積極的に発信中。主な著書に『職場の「しんどい」がスーッと消え去る大全』(大和出版)等がある。

制作

文:井上智介
写真:滝沢育絵

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