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2023.08.20

快適な職場環境を築くために。産業医との上手な付き合い方【働く人のこころ処方箋】

kencom公式:精神科医・井上智介

令和2年労働安全衛生調査(実態調査)によると、過去1年間にメンタルヘルス不調を理由に連続して1ヵ月以上休業した労働者又は退職した労働者がいた事業所割合は、平均で9.2%でした。うつ病などのメンタル不調は、現代では誰にでも起こりうる身近な病です。

本連載『働く人のこころ処方箋』では、産業医・精神科医・健診医として活躍している井上智介先生に、心の健康を保つ秘訣を教えていただきます。

©️ikue takizawa

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会社員の身近に寄り添う産業医とは

突然ですが、あなたは“産業医”という存在をご存じでしょうか。馴染みがないかもしれないので、まずその役割について簡単に説明します。

産業医とは、会社が健康的な職場環境を作り上げるために助言をする専門的な医師のことです。主に、メンタルヘルスも含めた働く人の健康の管理や職場の安全衛生の管理を担当しています。労働者が50人以上の事業場には、法律で産業医を選任する義務があると決められているので、あなたが所属している会社規模が条件を満たしていれば、ぜひ一度確認してみてください。

ほとんどの産業医が会社の人事部や総務部の担当者とコンタクトを取っているので、まずは社内の該当部署の担当者にどのタイミングで産業医が会社訪問をしているのかを確認してみてください。また産業医というのは、内科医や外科医、精神科医などの診療科の医師として兼務していることも珍しくないため、そのあたりも確認しておくといいでしょう。

産業医の活動には、従業員の体や心の健康を守るために、働くことで起こりうるリスクを早期発見して軽減する役割があります。そのために、従業員の健康診断の結果などはすべて確認しています。もしあなたが健診の結果を見て、専門的な用語や数値について不安になった時には、気軽に産業医に相談をしてみてください。

会社の産業医と病院の主治医の違い

最近は産業医へのメンタルヘルス不調の相談も多くなってきました。すでに心療内科などで治療を行っている人には主治医が存在しますが、会社の産業医と病院の主治医はどう使い分けたらいいのでしょうか。

いちばんの違いは、産業医はあなたの職場環境や仕事内容やその量、さらには人間関係まで把握できることです。職場におけるメンタルヘルス不調においては、そのあたりの調整が必要なケースはかなり多いです。

病院の主治医の場合、疾患における不眠や不安、元気がでないなどの症状の改善目的に薬物療法を主に対応します。しかし、あなたの就労状況を詳細に把握したり調整するのは、診察時間の問題もあってかなり難しいのが現実です。そもそも、主治医はあなたがどれくらいの通勤時間をかけて職場に行ってるかすら知らないくらいだと思っておいていいでしょう。通勤時間による、体力の消耗具合は大きく違ってくるので、メンタルヘルス不調を抱えながら働く時には大きな情報になります。

つまり、あなたが働いている環境や状況を把握した上で、体調面と働くことのバランスが崩れないように、総合的に相談できるのが産業医なのです。

上司に相談しにくいことも気軽に産業医へ

もうひとつ、産業医の特徴は、会社側に働きかけができることです。あなたの今の働き方がしんどいと思ったとしても、自ら上司に相談するのもハードルが高いのではないでしょうか。

そのような時は、産業医に相談してみましょう。産業医から会社側に働きかけて、今のあなたに適した業務の配慮を相談していく流れを作ることも可能です。

働きやすい職場環境を築くために

産業医を上手く活用することは、従業員の個人の問題だけではなく、会社全体としても大切な視点になります。たとえば、会社から、今月の産業医の訪問日時を全従業員に案内するなど、従業員が産業医に相談しやすい工夫をすることで、健康で快適な職場環境になって生産性が向上し、離職率の低下などにつながっていくのです。

『働く人のこころ処方箋』連載は本記事で最終回となります。ご愛読ありがとうございました。

記事情報

引用・参考文献

著者プロフィール

記事画像

井上智介(いのうえ・ともすけ)
産業医・精神科医・健診医。
兵庫県出身。島根大学を卒業後、大阪を中心に精神科医・産業医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、一般的な労働の安全衛生の指導に加えて、社内の人間関係のトラブルやハラスメントなどで苦しむ従業員にカウンセリング要素を取り入れた対話重視の精神的なケアを行う。精神科医としてはうつ病、発達障害、適応障害などの疾患の治療だけではなく、自殺に至る心理、災害や家庭、犯罪などのトラウマケアにも注力。SNSや講演会などでも「ラフな人生をめざすこと」を積極的に発信中。主な著書に『職場の「しんどい」がスーッと消え去る大全』(大和出版)等がある。

制作

文:井上智介
写真:滝沢育絵

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