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2023.05.07

気づくことが鍵。部下のメンタル不調に対処する3つのポイント【働く人のこころ処方箋】

kencom公式:精神科医・井上智介

令和2年労働安全衛生調査(実態調査)によると、過去1年間にメンタルヘルス不調を理由に連続して1ヵ月以上休業した労働者又は退職した労働者がいた事業所割合は、平均で9.2%でした。うつ病などのメンタル不調は、現代では誰にでも起こりうる身近な病です。

本連載『働く人のこころ処方箋』では、産業医・精神科医・健診医として活躍している井上智介先生に、心の健康を保つ秘訣を教えていただきます。

©️ikue takizawa

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部下の心の不調、どう対処する?

働く人のメンタルヘルスの大切さについて、あなたもその重要性を感じていると思います。ではもし、あなたが自分のメンタルに不調を感じたとき、すぐに誰かにSOSを出したり、病院を受診したりできるでしょうか。

たしかに、そのような行動がとれるとベストですが、やはり「弱い人だと思われたくない…」などの理由で躊躇してしまうこともあるでしょう。そのような時に、誰かに背中を押してもらって、治療につながることも少なくありません。

だからこそ、あなたの部下が困っているなら、そっと背中を押すようなサポートをしてあげて欲しいのです。メンタル不調の扱いに苦手意識があるかもしれませんが、次の3つのポイントを押さえていれば大丈夫です。

気持ちに寄り添い、気づく・促す・つなぐへ

1つめは『気づくこと』です。

当たり前かもしれませんが、部下の不調に気づくことから始まります。いつもと違って、浮かない表情をしていたり、口数も減って元気がなさそうな様子はありませんか。

ほかにも、勤怠の乱れには要注意です。休みや遅刻・早退が増えたり、残業時間が増えていないかも気にしてください。さらに、仕事の状況でも気づきやすいです。普段のその人らしくなく、納期に間に合わなかったり、ケアレスミスが多かったり、周りとの会話が減っているなどは見逃さないようにしてください。

2つめは『促すこと』です。

最初にも述べたように、自分のメンタル不調を受けいれるのは勇気がいります。責任感が強くてまじめな人ならなおさらです。「周りに迷惑をかけないように…」「弱音を吐いてはいけない…」という考えに縛られ、あなたが声をかけても「大丈夫です。何も問題がありません。」と流すことも多いです。

しかし、あなたなりに“どこかおかしい”と気づいたなら、その点を素直に伝えたうえで、まずは今の体調と向き合うように促してあげてください。

たとえば「食欲は変わってない?」「夜は寝れている?」「疲れはとれてる?」「仕事は思うように取り組めてる?」のように、本人の体調に目を向けられるように、尋ねてみましょう。本人のなかで少しでも不調に思い当たる節がありそうなら、今は無理せず心も体も休める必要があり、上司として力になることを伝えましょう。

3つめは『専門家につなぐこと』です。

力になりたいと言ったものの「私ひとりのサポートだけでは解決も難しいので、回復を手伝ってくれる仲間を一緒に探しますね」と知らせ、スムーズに専門家につながるようにしてください。

ここでの専門家とは、外部の精神科クリニックだけではなく、社内の産業医や人事総務部で心身の不調者の対応をする人などに、メンタルが不調な社員がいることを相談しましょう。「私がなんとかしてあげたい」と意気込む上司もいますが、メンタル不調の回復は一筋縄ではいかず、本人と上司の2人だけで抱え込んでもいい結果にはなりません。

大切なのは普段の様子を知っておくこと

この3つのポイントを意識して、メンタル不調を感じている部下に対応してください。何よりも、気づくことから始まります。

気づくとは、“普段のその人らしくない”ところにピンとくることです。だからこそ、普段から部下のことをよく見て、しっかりコミュニケーションをとって、“いつもの部下の様子”を知ることが何よりも大切なのです。

記事情報

引用・参考文献

著者プロフィール

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井上智介(いのうえ・ともすけ)
産業医・精神科医・健診医。
兵庫県出身。島根大学を卒業後、大阪を中心に精神科医・産業医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、一般的な労働の安全衛生の指導に加えて、社内の人間関係のトラブルやハラスメントなどで苦しむ従業員にカウンセリング要素を取り入れた対話重視の精神的なケアを行う。精神科医としてはうつ病、発達障害、適応障害などの疾患の治療だけではなく、自殺に至る心理、災害や家庭、犯罪などのトラウマケアにも注力。SNSや講演会などでも「ラフな人生をめざすこと」を積極的に発信中。主な著書に『職場の「しんどい」がスーッと消え去る大全』(大和出版)等がある。

制作

文:井上智介
写真:滝沢育絵

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