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2020.10.31

「炎上」を分析してわかった、SNS生活を快適に過ごすために1番必要なモノ│深爪 Vol.3

コラムニスト:深爪

Twitterフォロワー数18万人を超える人気主婦コラムニスト、深爪さんをご存じでしょうか?

斜め上から真横からと、独自の目線で切り込む発言が多くの人を虜にしている人物です。著書『深爪式 声に出して読めない53の話』『深爪流 役に立ちそうで立たない少し役に立つ話』『立て板に泥水』他、オンラインサロンなど多方面で活躍されています。さて、第三回目となるコラムは、SNSについて語っていただきました。

▼前回のお話しはこちら

毎日のように炎上するSNSの世界

私は、おはようからおやすみまでツイッターを見つめる重度のツイ廃(※1)だが、公式アカウントのプロモーションから個人の何気ない呟きに至るまで規模の大小を問わず毎日のように「炎上」を目撃する。

「生理は個性」というキャッチフレーズでキャンペーンを行い、「は?なにいってんの?“個性”だから我慢しろっていうのか」と袋叩きにされた某化粧品メーカー、夕食に冷凍餃子を出したら夫が子供に「これは手抜き」とのたまったという主婦の愚痴、「女の子への差し入れには5000円のGODIVAよりも5000円の基礎化粧品にすべき」と発言して「なんで”女の子”の代表ヅラして語ってんだよ。お前の個人的な嗜好やんけ」とボコボコにされた一般女性、と枚挙にいとまがない。

もはや炎上は日常のヒトコマだ。

燃える要因はさまざまだが、特に可燃性が高いのは「クソデカ主語」である。

個人的な考えや経験を「女(男)は」「日本人は」などとあたかも普遍的なことのように大きな主語で語るものだ。「私」が主語ならば「まあ、そういう人もいるよね」と流されるものが、主語がデカくなった途端、その属性にある人間が「みんながみんなそうじゃねえわ。決めつけるな」とブチ切れてしまう。上述の“5000円女”がまさにそれである。

また、「女性に無理解」もよく燃える。特に「冷凍餃子」のツイートのように、主婦に無神経な発言をする男性のエピソードはすぐに火柱が上がってしまう。

スーパーの総菜コーナーでポテサラを手に取ったら、「母親ならポテサラくらい手作りしろ」と見知らぬジジイに怒られたという子持ち女性のツイートはまたたく間に広がり、トレンドワードに「ポテサラ」が表示される事態にまでなった。あまりにタイムラインに「ポテサラ」という単語が並んだせいか「今夜はポテサラにすることにしました」と宣言する人も続出。ポテサラ爺のエピソードは、じゃがいも業界の巧妙な”ステマ”じゃないかと思ったくらいだ。

最も炎上しやすいキーワードは何か?

そして、ここ最近、最も炎上しやすいのが「政治的に正しくない発言」である。いわゆる「ポリコレ(※2)」に反するツイートは猛烈な勢いで燃える。

とにかく「正しいこと」から少しでも外れた発言をすると炎上してしまうのだ。

たとえば、日清食品の大坂なおみさんに対する応援ツイート。テニスウェアをまとった大坂さんの写真に「原宿に、行きたい」「原宿が好きななおみさんはいつもおしゃれ」とキャプションをつけた画像と共に「(大坂さんの)かわいい情報を置いておきますね」とコメントが添えられていたのだが、コメント欄には「アスリートをバカにするな」「彼女の反差別の声を取り上げないのか」と批判で溢れかえっていた。

政治的に正しい姿勢を見せないとボッコボコなのだ。たしかに、反差別を切実に訴える人々にとって、この広告は軽薄に見えるのだろう。だが、これは日清の姿勢として間違っているとは思えない。日清はこういう会社だ、というのが一目でわかるからである。

政治色を入れず、強くておちゃめなアスリートを前面に打ち出して親しみやすさを得るのもひとつの方向性だ。しかし、フルボッコ。完膚なきまでにボッコボコ。不買運動まで呼びかけられる事態に発展していた。

では、主語を「私」にし、女性にもポリコレにも配慮したツイートなら安全なのだろうか。おそらくそれでも「炎上」を防ぐことはできないと私は思っている。なぜなら、ツイッターのユーザーの中には常に「燃やそう」と虎視眈々と狙っている人間が少なからずいるからだ。どこかに燃やせるネタはないかと嗅ぎまわり、隙あらばガソリンをまいて火をつける放火魔みたいな人種がいるのである。

実際、「朝起きたら一面の銀世界だった。最高!」に対して「雪で家族を亡くした人の気持ちを考えろ」、「〇〇に行ってきました!楽しかった!」には「お前のようなヤツがいるからコロナの感染が広まる。自粛しろ」、「新しい炊飯ジャーで炊いたご飯、めちゃくちゃおいしい」に「金持ち自慢うざい」とリプライが飛んできたことがある。

これはほんの一例だが、政治思想もヘイトもなにも含まない、何気ない呟きすら批判されるのなら、もはや野良犬に噛まれたと思って諦めるしかない。

新型コロナの感染拡大で不安が渦巻く現代には余裕がなく、些細なことで苛立っている人が多いように思える。彼らにとってムカつくヤツに安全地帯から石を投げるのは、手軽なストレス解消法になっているのかもしれない。

「正義」という名目で叩く人が続出

ただ、近ごろは、明らかな悪意から攻撃する人よりも正義感に駆られて燃やす人が目に付く。

たとえば、電車内で見掛けたマナーの悪い人をスマホで撮影して「こいつ、ヤバくね?」とSNSで袋叩きにする人。

マナーの悪い人なんかよりも、赤の他人を勝手に撮影して無許可でSNSにアップすることに抵抗がないどころか、それを正義と疑わない人の方がよっぽどヤバいと思ってしまうが、本人は世直ししているくらいの意識しかないのだろう。

「嫌悪感」という単なる個人的な感情にも、「正義」の名のもとには相手を心ゆくまで殴り殺してもいい、と思い込んでいる人が少なからずいるのは恐ろしい。ひとたび炎上が発生すると、それまで静観していた人も加担してボロクソに言い始めるのを見てもわかるように、彼らにとって「炎上」は「叩いてオッケー」のゴーサインなのだ。

SNSで炎上した人が謝罪や釈明をしながら誠心誠意対応しているさまをよく見かけるが、ぶっちゃけアレは無駄な作業である。

どんなに懇切丁寧に説明をして、額がめり込むほど土下座をしたところで完全に鎮火させることはできない。攻撃的なコメントを飛ばしてくる大多数の人間の動機は「おまえが気に入らねえ」や「なんかムカつく」なので、どんなに真摯に対応しても努力が報われることはまずない。それどころか「その謝り方はなんだ」「言い訳するのか」と、さらなる炎上を招くことすらある。

炎上しない方法は?必要な力とは?

つまり、何をしても燃えてしまうのだ。

もし「SNSで炎上しない方法」があるとするなら、それは「SNSをしない」しかないと私は思う。

全く身も蓋もない話だが、SNSをするなら常に燃える覚悟が必要ということだ。ここまで読んで、絶望に打ちひしがれている人も多いと思う。そんなみなさんにひとつだけ希望の持てるお話をしたい。

よく「人の噂も七十五日」というが、ことネットにおいてはどんなに話題になったトピックも3日もすれば忘れられてしまう。SNSでは毎日のように新鮮なオモシロニュースが流れてくるので、どんどん“上書き”されてしまうからだろう。

これは「炎上」も同じである。

どんなに燃えたネタも3日で誰も話題にしなくなるので、もしSNSで炎上したときには3日間ひたすらスルーするのがいい。

どんな罵詈雑言にも反応せず、「今日は朝からカレーを食べちゃいました!」みたいな投稿を延々と繰り返せばいいのである。全身火だるまになっていても涼しい顔でカレーの話ができる胆力こそが、快適なSNS生活を送るために一番必要なものなのではないかと私は思うのである。

(※1)ツイ廃:ツイッター廃人の略語。ツイッターの利用に没頭あるいは依存している人のこと。
(※2)ポリコレ:ポリティカル・コレクトネス。性別・人種・民族・宗教などに基づく差別・偏見を防ぐ目的で、政治的・社会的に公正・中立な言葉や表現を使用することを指す。

著者プロフィール

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■深爪

コラムニスト/主婦。2012年11月にツイッターにアカウントを開設。独特な視点から繰り出すツイートが共感を呼び、またたく間にフォロワーが増え、その数18万人超(2020年10月現在)。主婦業の傍ら、執筆活動をしている。主な著書に「立て板に泥水」「深爪式 声に出して読めない53の話」「深爪流 役に立ちそうで立たない少し役に立つ話」(すべてKADOKAWA)。また、オンラインサロン「深爪の役に立ちそうで立たない少し役に立つオンラインサロン」でも活動中。芸能、ドラマ、人生、恋愛、エロと、執筆ジャンルは多様。

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