メニュー

2023.07.16

繊細すぎて疲れてしまう…。生きづらいHSPとの付き合い方・活かし方【働く人のこころ処方箋】

kencom公式:精神科医・井上智介

令和2年労働安全衛生調査(実態調査)によると、過去1年間にメンタルヘルス不調を理由に連続して1ヵ月以上休業した労働者又は退職した労働者がいた事業所割合は、平均で9.2%でした。うつ病などのメンタル不調は、現代では誰にでも起こりうる身近な病です。

本連載『働く人のこころ処方箋』では、産業医・精神科医・健診医として活躍している井上智介先生に、心の健康を保つ秘訣を教えていただきます。

©ikue takizawa

©ikue takizawa

5人に1人はHSPの気質がある

HSPという言葉を聞いたことがありますか。Highly Sensitive Personの頭文字をとった略語で、疾患ではなく人の気質を表す言葉です。日本では、繊細すぎる人や感覚が敏感すぎる人と訳されますが、もっと分かりやすく言えば感受性が豊かすぎる人でしょうか。

実は5人に1人はこの気質があると言われているので、決して珍しくはありません。あなたの周りにも、いつもオフィスの些細な雰囲気の変化やこれから雨が降りそうな空気の香りに気がつくような人はいませんか。そんな敏感な人は、HSPの気質があるかもしれませんね。

繊細すぎる、だから生きづらい

しかし、HSPの人は感覚が繊細だからこそ、苦しい思いをすることもあります。たとえば、冷房の温度が少し低いだけで耐えられない程の寒さに苦しんだり、別室から漏れてくるWEB会議の音が、大きな騒音に聞こえて仕事に集中できないこともあります。さらには、他人の感情も繊細に感じ取って、「今日、あの人はすごく機嫌が悪い」と察知できるがゆえに、委縮して必要な相談ができなかったりもします。

また何事に対しても、最悪の事態を想定する特徴があるため、周りから「それは考えすぎ」と指摘されることもたびたび。環境によっては、何事に対しても繊細に感じ取って、必要以上に緊張や警戒心が高いまま、いつも人の顔色をうかがって行動してしまいます。

誰かに注意された訳でもないのに「さっきの発言で相手を怒らせてないかな」「自分は変なことしてないかな」と、いつも不安になり、急に心臓がドキドキしたり汗が止まらなくなるという不安障害のような症状にまで発展することもあります。

HSP気質と上手に付き合おう

では、HSPの気質とは、どう付き合っていけばいいのでしょうか。これには自分の工夫だけではなく、周りの協力を仰ぐ必要もあります。

大前提として、HSPの人は、音や雰囲気などに敏感なため、働く環境を自分好みに設定できる在宅勤務のほうが働きやすい人が多いです。しかし、業種によってはリモート勤務ができないこともありますので、各々の対策が必要です。

例えば、音に過敏な人は、オフィスではできるだけ静かな席を割り当ててもらったり、業務に支障がない範囲で耳栓を使ったりすることも効果的。また周りの視線が気になる人も多いので、壁際の席にしてもらうなど、小さな配慮でHSPの人が働きやすくする工夫ができるのです。

またHSPの人は、上司などから仕事で些細なミスを軽く指摘されただけでも、「信用を全て失った」や「評価が落ちてしまった」と深くネガティブに捉えやすい特徴があります。そのため、上司が本人にフィードバックをするときは、改善点だけではなく、本人の長所や今までの努力にも焦点を当てて、バランスをとりながら伝えると良いでしょう。

繊細、だからこそできることもある

HSPの人が直面する悩みは、日常生活に関わる問題も多くあります。しかし、繊細だからこそ、細かいところへの鋭い気づきや相手の気持ちへの深い共感、相手を不快にしない心理的距離感を自然にとることができます。

業務上のちょっとした違和感を早めにキャッチできたり、一緒に働く人の疲労具合も感じ取りやすいため、率先して心配や労をねぎらう声をかけることもできます。このように、けっしてHSPの気質であることは、治すような欠点ではなく、活かせる場所を探したり自分なりにコントロールすることを意識して付き合うことが大切なのです。

記事情報

引用・参考文献

著者プロフィール

記事画像

井上智介(いのうえ・ともすけ)
産業医・精神科医・健診医。
兵庫県出身。島根大学を卒業後、大阪を中心に精神科医・産業医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、一般的な労働の安全衛生の指導に加えて、社内の人間関係のトラブルやハラスメントなどで苦しむ従業員にカウンセリング要素を取り入れた対話重視の精神的なケアを行う。精神科医としてはうつ病、発達障害、適応障害などの疾患の治療だけではなく、自殺に至る心理、災害や家庭、犯罪などのトラウマケアにも注力。SNSや講演会などでも「ラフな人生をめざすこと」を積極的に発信中。主な著書に『職場の「しんどい」がスーッと消え去る大全』(大和出版)等がある。

制作

文:井上智介
写真:滝沢育絵

あわせて読みたい

この記事に関連するキーワード