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2023.03.27

あなたの健康を脅かす睡眠負債とは? 質のよい睡眠を作る習慣の身につけ方

kencom公式ライター:村岡祐菜

仕事もプライベートも、日々忙しく過ごしていると「寝ている時間がもったいない!眠らずに活動できたらいいのに…」と思うこともあるのではないでしょうか。1日は24時間と決まっているので、睡眠時間を削ればやるべきこともやりたいことも、もっとたくさんできそうに思えますよね。

今回は『ぐっすり眠る習慣』の著者で、『RESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック』で睡眠専門医をされている白濱龍太郎先生に、睡眠の大切さや効率よくぐっすり眠るための方法について、お話を聞きました。

白濱龍太郎(しらはま・りゅうたろう)先生

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RESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック理事長・睡眠専門医
筑波大学卒業後、東京医科歯科大学大学院統合呼吸器学修了。公立総合病院睡眠センター長などを経て、2003年に『RESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック』を設立。これまでに約2万人もの睡眠に悩む人を救ってきた。著書に『ぐっすり眠る習慣』『誰でも簡単にぐっすり眠れるようになる方法』『睡眠専門医が考案した いびきを自分で治す方法』(アスコム)がある。

なぜ私たちは眠る必要があるの?

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私たちにとって睡眠が大切な理由のひとつは、最大のパフォーマンスを出すためです。十分な睡眠時間を確保し、質のよい睡眠をとることで、私たちは日々最大限の力を発揮することができます。

睡眠は別のものに例えるなら、スマートフォンににとっての“充電”です。前日にスマホの充電を忘れていたり、充電器の接触が悪かったりして、うまく充電されていなかった経験が一度はあるかと思います。朝家を出るときにスマホの充電が40%しかなく、途中で充電できないとしたらどうしますか?スマホを使いたくなっても、その日はスマホの使用を最低限に抑えたり、省電力モードで使用したりといった対策をとらなければならないことになるでしょう。

私たちもスマホと同じで、睡眠の質が悪かったり睡眠時間が不十分だったりすると、本来もっている力を発揮できず、集中力が下がったりミスが増えたりといったパフォーマンスの低下につながります。睡眠は「眠くなったから寝る」といった意味合いだけでなく、毎日100%充電された状態で1日の始まりを迎えるために、非常に大切なことなのです。

あなたの睡眠の質は?睡眠診断でチェックしよう

ここで、あなたが普段質のよい睡眠をとれているかどうかチェックしてみましょう。以下のチェックリストを見て、当てはまるものがいくつあるか数えてみてください。

『ぐっすり眠る習慣』(アスコム)より抜粋

『ぐっすり眠る習慣』(アスコム)より抜粋

3つ以上当てはまった場合、睡眠の質が悪くなっているかもしれません。集中力が続かない、小さなことでイライラしてしまう、気持ちが落ち込みやすいといったことはありませんでしたか?

実は、イライラしたり落ち込んだりするのは、質の悪い睡眠が続いていることを体が察知して、危険信号を出してくれているからなのです。慢性的に質の良い睡眠がとれなくなっている方のなかには、イライラしたり落ち込んだりするのが当たり前の状態になっている場合もあります。

良質な睡眠がとれないことで溜まっていく“睡眠負債”

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睡眠の質が下がると、日々のパフォーマンスが落ちる以外に、健康面にも影響を与えます。睡眠の質が悪い状態が続くと、“睡眠負債”として体の中に疲れが蓄積されていってしまうのです。睡眠負債の蓄積は、以下に挙げるような病気の引き金になることもあるという研究データもあるため、注意が必要です。

●高血圧
●糖尿病
●がん
●狭心症
●うつ病

睡眠と直接関係があるように思えない病気も、実は睡眠が深く関係しているケースもあります。睡眠の質を重視することは、毎日を穏やかに過ごすことだけでなく、将来の病気を予防することにもつながっているのです。

睡眠負債を溜め込みやすい日本の文化的背景

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睡眠の質とともに考えたいのが“量”の問題です。ある調査では、日本人の睡眠時間は男女ともに世界最下位で、睡眠時間が最も短いという傾向がありました。睡眠の質は睡眠時間だけでは測れないものの、ひとつの指標として重要な要素であることは間違いありません。

日本には“惰眠”という言葉がある通り、睡眠に対してネガティブなイメージを抱いてきた文化的な背景があります。寝ている時間は、活動できない無駄な時間ととらえている方も多くいることでしょう。しかし、寝ている間に体の中では細胞レベルでの修復が行われています。日中に受けたダメージから心や体を回復させる上で、睡眠は非常に重要な役割を担っているのです。

最近は日本でも少しずつ睡眠に対する認識が見直され、前向きにとらえられるようになってきました。例えば、睡眠時間や睡眠の深さをスマホで測定できるアプリの登場があります。一部のビジネスホテルでは、睡眠障害のリスクがあるかどうかをチェックできる簡単な検査を導入しています。私たちも少しずつ、睡眠に対する認識を変えていくことが大切です。

睡眠負債を解消するための2つのポイント

睡眠負債は、質のよい睡眠を続けて日々ぐっすり眠ることにより解消されます。ぐっすり眠れている状態とは、深い睡眠(ノンレム睡眠)と浅い睡眠(レム睡眠)のバランスがとれている状態。さらに、ノンレム睡眠のなかでもとくに深い睡眠である深睡眠が一晩に2回程度あることも重要です。

理想的な質の睡眠を確保するうえで大切なポイントが2つあります。

副交感神経の働きを活発にしてリラックスする

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自律神経には交感神経と副交感神経の2種類があり、交感神経はアクセル、副交感神経はブレーキの役割を果たします。ぐっすり眠るためには、夜寝るときに体にとってのブレーキである副交感神経の働きを高めることが大切です。

例えば、落ち着いた雰囲気の音楽を聞くことやリラックスできる香り(ラベンダーやコーヒーなど)をかぐこと、感動できる物語を読んで涙を流すことなどは、副交感神経の働きを高め、リラックスにつながります。

血流を促して寝る前に深部体温を下げる

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深部体温とは、体の内部の温度を指します。ぐっすり眠るためには、深部体温のコントロールが大切で、寝るときは深部体温を下げることで、脳がクールダウンされてぐっすり眠りやすくなるのです。そのためには、体の熱を外に発散させる必要があります。血流がいいほど熱が発散されやすくなるため、寝る前に血流を促すことで血管が開き、熱が外に逃げやすくなります。

具体的には、寝る時間の1時間半から2時間ほど前にお風呂に入って一度体を温めるのがおすすめ。入浴後は軽いストレッチをすると、より血流を促すことにつながります。

私たちは、日中に活動している状態から、いきなり眠ることはできません。起きているときは交感神経が働いていて、緊張状態にあることを知っておきましょう。寝る時間が近づくにつれて少しずつアクセルをゆるめていき、速度を落として寝る準備を整えることが大切です。

ぐっすり眠るために今日からできる2つのこと

ぐっすり眠る習慣を身につけるための第一歩として、今日からできる2つのことをためしてみてください。

睡眠日誌をつけよう

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まずは、睡眠日誌をつけましょう。睡眠日誌とは自分の睡眠リズムを記録するもので、スマホのアプリなどで簡単に始められます。自分が普段何時に寝て何時に起きて、何時間眠れているのかを知るために行います。

普段何気なく過ごしていると、何にどれだけ時間を使っているのか把握しないまま日々が流れていってしまうのではないでしょうか。睡眠日誌をつけて自分の睡眠に関心をもつことが、ぐっすり眠る習慣を身につける第一歩です。

寝る2時間前からスマホ禁止

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スマホの画面から出ているブルーライトは、人が眠気を感じるうえで大切なメラトニンというホルモンの分泌を抑えてしまうことが知られています。また、スマホから絶えず脳に情報が入ってくることで、脳が興奮状態になって眠れなくなってしまうのです。

理想は、寝る時間の2時間前からスマホを触らないことです。でも、夜のリラックスタイムに時間ができると、ついスマホを開いてしまうことはよくあることでしょう。スマホをやめるときにおすすめしたいのが、代わりに別な習慣を取り入れることです。

例えば、寝る2時間前からお風呂に入って体を温め、お風呂から上がったらストレッチをするのはいかがでしょう。その後は音楽を聴いたりリラックスできる香りをかいだりしながら、少しずつ眠る体制を整えてみてください。

ぐっすり眠って自分の力を最大限に発揮しよう

睡眠は、単に“休む”以外にもさまざまな役割を担っています。ぐっすり眠ることは、毎日を活動的に過ごすだけでなく、将来の健康を守ることにもつながる大事なことなのです。

■今回のお話を伺った白濱龍太郎先生の著書

『ぐっすり眠る習慣』(アスコム)

『ぐっすり眠る習慣』(アスコム)

記事情報

著者プロフィール

村岡 祐菜(むらおか・ゆうな)
薬剤師・フリーライター
千葉大学薬学部薬学科卒業後、薬局薬剤師として約4年間勤務後、ライターとして独立。現在は不定期で薬局薬剤師として現場に入りつつ、医療関連のコラム制作や取材記事の制作に関わる。専門知識を一般の方にもわかりやすく伝える文章を書くのが得意。

制作

監修:白濱龍太郎
取材・文:村岡祐菜

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