仕事がしんどいなぁと感じたら。見逃さないで、心のSOS【働く人のこころ処方箋】

令和2年労働安全衛生調査（実態調査）によると、過去1年間にメンタルヘルス不調を理由に連続して1ヵ月以上休業した労働者又は退職した労働者がいた事業所割合は、平均で9.2％でした。また生涯でうつ病を経験する人は約6％という調査結果もあり、現代ではメンタルヘルス不調は誰にでも起こりうる病です。

本連載『働く人のこころ処方箋』では、産業医・精神科医・健診医として活躍している井上智介先生に、心の健康を保つ秘訣を教えていただきます。

ここ最近は、メンタルヘルスの大切さを耳にする機会も増えましたね。あなたも体の調子だけではなく、心の調子を乱さないことの大切さも知っていると思います。だからこそ、仕事がしんどいなぁと感じたとき

「これってマズい状態なのかな？」

と悩むこともあるでしょう。ただ、多くの人がそのような時は

「周りも同じように頑張っているから…」
「ここが踏ん張りどころだから…」

と、より一層無理を重ねてしまうものです。もちろん、その結果として、さらなる高みに到達できる人もいるでしょう。しかしその一方で、その無理がたたって、長期的に通院が必要になってしまう程に心身の調子をくずしてしまう人も。そんな話を聞くと、頑張り屋さんのあなたは「では、どんな時に病院に行けばいいの？」と気になることでしょう。

実は心が限界に達しているとき、体から多くのSOSが出ています。その声を無視せずに、丁寧に向き合うことこそが病状を悪化させないコツです。とくに、次に挙げる3つの場面で変化がとらえやすいので、常日頃いつもと違ったことが起きてないか目を向けてあげてください。

1つ目は睡眠。いつもなら布団に入ればスッと寝れていたのに、ここ最近は1時間も寝つけないとか、夜中に何度も目が覚めるなんてことはありませんか。朝7時に起きたらいいのに、4時に目が覚め、そこから全く眠れないなんてことも要注意です。

2つ目は食事。普段よりも、少食になっていたり過食になっていませんか。ほかにも、いつも以上に甘いものが食べたくなっているなど、偏った味ばかりを食べてしまう人もいます。

3つ目は遊び。いつもならワクワクしていた趣味や遊びにも心が動かず、家でゆっくりしていたいと思っていませんか。趣味の活動はできるものの、以前のような楽しみは感じなくて、ただの時間つぶしになっている人も要注意です。

もし、SOSが続くようであれば、かなりのストレスを抱えている可能性が高いです。2週間以上、毎日のように続いているときは、病院に行きましょう。最初から精神科に行くのが不安であれば、内科からでも構いません。もしかすると、どこかの臓器に問題があるかもしれませんから。

もし数日間でも、心のSOSが続いているようなら、やはり早めの対処が必要です。対処には、ストレスの原因を解除するか、たまったストレスを解消するかの2通りがあります。

ストレスの原因が、仕事の納期だったり社内の人間関係で、あなたひとりでどうしようもなければ、素直に周りの人に助けを求めましょう。残念ながら、あなたが言わない限り、周りの人は気づいてくれないので、ちょっと勇気を出して相談するようにしてください。

ストレス解消をするなら、あなたらしい方法で構いません。スポーツでも音楽でも自分がリラックスできて、楽しいと思うことを考えてみて。どうしても思いつかない人は、身体的にとって心地よいことにトライしてみてください。たとえば、マッサージやエステ、サウナなどはおすすめですよ。

これからは、自分のからだの内なる声に耳を傾けるようにしてください。限界というのは超えるものではなく、超えてはいけない一線であることを改めて認識して、健康第一で過ごすようにしてくださいね。

井上智介（いのうえ・ともすけ）
産業医・精神科医・健診医。
兵庫県出身。島根大学を卒業後、大阪を中心に精神科医・産業医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、一般的な労働の安全衛生の指導に加えて、社内の人間関係のトラブルやハラスメントなどで苦しむ従業員にカウンセリング要素を取り入れた対話重視の精神的なケアを行う。精神科医としてはうつ病、発達障害、適応障害などの疾患の治療だけではなく、自殺に至る心理、災害や家庭、犯罪などのトラウマケアにも注力。SNSや講演会などでも「ラフな人生をめざすこと」を積極的に発信中。主な著書に『職場の「しんどい」がスーッと消え去る大全』（大和出版）等がある。

文：井上智介
写真：滝沢育絵