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2021.04.17

学校は新型コロナ感染拡大の温床なのか?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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新型コロナウイルスの感染の広がりは、まだまだ勢いが衰えないようです。常に集団で学校生活を送る子供は、この感染拡大にどのような影響を与えているのでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、British Medical Journal誌に、2021年3月17日ウェブ掲載された、スイスの学校における新型コロナウイルス感染の広がりを、抗体検査を繰り返して検証した論文です。

▼石原先生のブログはこちら

子供は感染拡大にどの程度影響を与えているのか?

新型コロナウイルス感染の広がりにおける、学校の役割というのは、まだ明らかではない事項の1つです。

特に小学校の高学年くらいの年齢以降においては、新型コロナウイルス感染症の罹患率は、ほぼ成人と同等だと考えられています。つまり、子供も大人と同じようにこの病気に移ります。

しかし、有症状の感染自体は子供では少なく、重症化は極めて稀だと報告されています。従って子供にとってこの病気は、その通り「ただの風邪」だ、と言って良いのかも知れません。

しかし、問題はこの新型コロナウイルス感染症のパンデミックにおいて、子供が感染拡大にどのくらいの影響を与えているのか、ということです。この点については多くの意見があり、まだ結論に至っていません。

学校の感染の広がりと症状の有無を比較検証

今回の研究は、2020年夏に第2波の新型コロナウイルス感染症の大流行に見舞われたスイスにおいて、開校されていた子供が通う学校の、無作為に選ばれた55の学校、275のクラスにおいて、2603名の児童生徒を対象に行われました。

2020年の6月~7月と10月~11月に、新型コロナウイルスの抗体検査を施行し、クラス内での感染の広がりと、症状の有無などを比較検証しています。

その結果、6月~7月に抗体検査を施行した2496名のうち、74名が抗体陽性で、10月~11月に抗体検査を施行した2503名のうち、173名が抗体陽性でした。

初夏と秋に2回抗体測定を行った生徒は2223名で、最初の検査で陽性であった70名のうち、40%に当たる28名は2回目の検査では陰性となり、最初の検査で陰性であった2153名のうち、5%に当たる109名が陽性となっていて、これがその間に感染した比率ということになります。

対象となった子ども達を、6~9歳、9~13歳、12~16歳の、3つのグループで比較した検討では、その罹患率には年齢による差は見られませんでした。

感染拡大の温床は、学校ではなくほかの場所

55の対象校のうち47校、その275のクラスのうち90クラスでは、1名以上の感染者がその間に出現していました。

感染拡大地域にあった130のクラスのうち、56%に当たる73のクラスでは患者の発生はなく、38%に当たる50のクラスではクラスの1、2名が感染し、クラスで3名以上が感染したクラスは、全体の5%に当たる7クラスのみでした。

つまり、学校のクラスが感染拡大の温床であるなら、もっと大勢の感染者のいるクラスがあっても良いはずですが、殆どそうした事例はなく、むしろ他の場所での感染が反映されているだけのように思われます。

変異株は別の性質であることにも注意

このデータは今後より検証が必要だと思われますが、少なくとも「学校が感染拡大の温床である」という考え方はあまり根拠のあるものではないと、現時点ではそう考えておいた方が良いようです。

勿論これは従来型のウイルスについての話で、変異株についてはまた別の性質を持つのではないか、という考え方もあることは補足しておきたいと思います。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36