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2020.05.16

合併症に要注意!意外と怖い感染症【おたふく風邪・前編】

kencom 公式ライター:森下千佳

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「おたふく風邪は、かかって免疫をつけるもの」そんな誤った認識を持っていませんか?おたふく風邪はよく知られているため、軽い病気だと考えられがちですが、感染者の1,000人に1人が難聴になるなど、深刻な合併症を発症することもある感染症です。

ご自身と、子供にとって悔いの残ることにならないためにも、「おたふく風邪」についてしっかりと知って、予防法について学んでおきましょう。教えていただいたのは、東京都立小児総合医療センターの福岡かほる先生です。

福岡 かほる(ふくおか・かほる)先生

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東京都立小児総合医療センター 感染症科・免疫科

【プロフィール】
小児科医。2010年徳島大学医学部卒。香川小児病院にて初期研修、熊本赤十字病院小児科・熊本市立熊本市民病院 新生児内科にて後期研修を経て、2015年より現職。 2018年より感染症科医員、2019年より診療科責任者を務める。 専門は小児感染症・感染制御。小児科専門医・日本小児感染症学会認定暫定指導医。

おたふく風邪とは?

おたふく風邪は、正式には流行性耳下腺炎といい、ムンプスウイルスの感染によって症状を起こす疾患のひとつです。感染力はかなり高く、耳の下あたりが腫れるため、見た目から「おたふく風邪」と呼ばれています。

特に幼児~小学校低学年くらいまでの小児に多く発症しますが、免疫が不十分なら大人でもかかるため、子育て世代の大人が子供からうつされることも少なくありません。日本は先進諸国で唯一おたふく風邪が定期接種になっていないため、4、5年ごとに流行を繰り返しています。

ムンプスウイルスにはどうやって感染するの?

ムンプスウイルスへの主な感染経路は、飛まつ感染と接触感染です。風邪の原因ウイルスと、ほぼ同じだと思ってください。飛まつ感染は、感染している人がせきやくしゃみをすることで、ウイルスを含んだ「しぶき(飛まつ)」が飛び散り、周囲にいる人が鼻や口から吸い込んで感染します。

飛び散ったウイルスが目の粘膜から体内に入って感染することもあります。接触感染は、皮膚や粘膜の直接的な接触や、ムンプスウイルスが付着したドアノブ、手すり、スイッチなどに触れた、目や口を触ることで感染します。

長い潜伏期間

おたふく風邪は、ムンプスウイルスに感染してもすぐには症状が出ず、最大25日の潜伏期間を経て発症します。潜伏期間が長いので、感染している事になかなか気がつけないため、知らないうちに周りの人にうつしてしまうことがあります。小学校や幼稚園などで、集団的におたふく風邪が流行してしまう背景には、この潜伏期間が関係していると考えられています。

おたふく風邪の症状は?

耳と顎の下あたりが腫れる

おたふく風邪に感染すると、おおよそ2~4週間の潜伏期の後、耳下腺の腫れが見られます。耳下腺とは、耳の下にある、唾液を分泌する唾液腺の一つです。両方の耳下腺が腫れる人もいれば、片方だけ腫れる人、左右の腫れが時間差で現れる人もいます。腫れには痛みを伴います。唾液は食事をし始めると分泌が促されるため、ごはんを食べたときに唾液腺に痛みを感じる場合は、おたふく風邪のサインの一つになります。

発熱、頭痛、倦怠感

その他、発熱、頭痛、倦怠感、筋肉痛などが現れることがあります。発熱は37度から40度まで幅があり、数日から1週間ほどで下がることが一般的です。また、30%以上はウイルスに感染しても症状が現れない不顕性感染と言われています。

合併症が怖いおたふく風邪

おたふく風邪は、無症状で終わったり、症状が出ても軽く済んでしまうケースも多いですが、時に重い合併症を引き起こすことで知られています。場合によっては、一生耳が聞こえないなどの重い後遺症が残ってしまうこともあります。「おたふく風邪は、子供の頃にかかって免疫をつける」と考える方もいますが、これは間違いです。

罹患した子供の一定数は合併症を起こし、その合併症には治療法がありません。しっかりと、リスクを知っておきましょう。

ムンプス難聴

おたふく風邪に罹患した1,000人に1人の割合で起こる合併症で、音を感じる神経が破壊されて、一生治らない難聴になります。頻度としては片耳で起こることが多いですが、一部は両耳に起こり、完全に聴力を失ってしまう子もいます。残念ながら確立された治療法はありません。子供だけでなく、子供からうつりやすい子育て世代でも発生が報告されています。

無菌性髄膜炎

無菌性髄膜炎はおたふく風邪の代表的な合併症で、脳を包む髄膜にムンプスウイルスが感染して炎症を起こし、高熱やおう吐、頭痛などの症状が続きます。残念ながら治療法がないので、入院をして点滴や、解熱剤などを使用した対症療法を行います。通常1~2週間ほどで自然によくなっていきます。

脳炎

脳炎はムンプスウイルスが脳に侵入して感染することで起こります。主な症状は高熱や頭痛、けいれん、意識障害ですが、異常な言動や麻痺が起こることもあります。発症する頻度は低いものの、治ってもさまざまな後遺症を引き起こすことがある上、時には死に至ることもある重篤な合併症です。

精巣炎

おたふく風邪にかかった男性(思春期以降)の約20~30%は精巣炎を起こすとされています。稀ではあるものの、ムンプスウイルスに感染した後、睾丸萎縮を伴って精子数が減り、男性不妊の原因になることがあります。

卵巣炎

思春期以降の女性がおたふく風邪になると、まれに卵巣炎になることがあります。おたふく風邪の症状が現れてから数日以内に、下腹部痛がみられます。

合併症のリスクを知って、しっかり子供を守ろう!

よく知られている「おたふく風邪」も、合併症については知らない方が多かったのではないでしょうか?

「私は大丈夫」「うちの子は大丈夫」といった保証はなく、かかった子の一定数は合併症を起こしてしてまう可能性があります。怖いことに、おたふく風邪の合併症には決まった治療法がありません。おたふく風邪にかからないためにも、予防法をよく理解して対策を立てることが何よりも大切!次の記事で詳しくお伝えします。

▼後編の記事はこちら

著者プロフィール

■森下千佳(もりした・ちか)
フリーエディター。お茶の水女子大学理学部卒。テレビ局に入社し、報道部記者として事件・事故を取材。女性ならではの目線で、取材先の言葉や見過ごされがちな出来事を引き出す事を得意とする。退社後、ニューヨークに移住。当時、日本ではなかなか手に入らなかったオーガニック商品を日本に届けるベンチャー企業の立ち上げに関わる。帰国後、子宮頸がん検診の啓発活動を手がける一般社団法人の理事を経て現職。一児の母。

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