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2020.05.16

人生で2回!予防接種が最大の防御【おたふく風邪・後編】

kencom 公式ライター:森下千佳

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前回の記事では、おたふく風邪にかかると、ムンプス難聴や脳炎などの怖い合併症にかかってしまう可能性があり、一生治らないこともあるとお伝えしました。しかし、リスクを知り、しっかりと対策をとっていれば、自分や家族を守ることができます。

今回は、おたふく風邪の予防法を、東京都立小児総合医療センターの福岡かほる先生に伺いました。

おたふく風邪には治療薬がない

おたふく風邪には特効薬がなく、基本的には自分の治癒力で治していきます。病院では対症療法が中心となり、発熱や痛みに対しては解熱鎮痛剤が処方され、食欲不振で脱水傾向にある場合は、点滴で水分を補給したりして回復を待ちます。合併症など症状がひどい場合は入院となることもあります。耳下腺の腫れは、個人差があるものの、およそ1週間ほどで快方に向かうことが多いです。

家庭でできる対処法は?

おたふく風邪は、唾液腺が腫れて痛みます。痛くてご飯が食べられない時や、高熱が出てしまう場合は、無理せず解熱鎮痛薬を使いましょう。痛みで食事ができない場合は、水分をよくとらせ、ゼリーなどの刺激にならないようなものを選んであげましょう。

食欲がなければ無理に食べさせなくてもよいです。繰り返しになりますが、おたふく風邪には特効薬はなく、自然回復を待つのみです。多くの場合は数日すると落ち着いてくるので、安静にして、外出を控えてください。

いつから登校・登園できる?

腫れが引く頃までは感染力のある場合が多いので、腫れが完全に引き、なおかつ平熱になれば登校・登園できます。集団感染を防ぐ目的で制定された学校保健安全法施行規則によれば、出席停止期間は以下のように定められています。

「耳下腺、顎下腺又は舌下腺の腫脹が始まった後五日を経過し、かつ、全身状態が良好となるまで」 (学校保健安全法より引用)

子供のおたふく風邪にうつらないためには

おたふく風邪は子供だけの病気ではなく、両親にうつしてしまう事もあります。大人の7割が抗体を持っていると言われていますが、抗体がなくうつってしまっった場合は、大人は重症化する頻度が高くなるので注意が必要です。おたふく風邪に罹患した子供とは、食器や箸、タオルなど、唾液に触れるようなものの共有は避け、出来るだけ飛沫が飛ばない距離を保つことが大切です。子供にマスクをさせる事もある程度有効です。

最も効果的な予防法は、ワクチン接種

「任意接種=必要ではない予防接種」ではない

おたふく風邪の予防には、ワクチンを接種することが有効です。おたふく風邪ワクチンは、世界の先進国の多くで2回の定期接種となっているので流行が抑えられているのに対し、日本では任意接種となっており、毎年約60万人の子どもがかかり、重い合併症に苦しむ子もいます。

接種費用は自己負担ですが、「任意接種」だから「打たなくてもいいワクチン」ということではなく、すべての人が接種すべきワクチンです。おたふく風邪による後遺症を防ぐためにも、予防接種を受けることをお勧めします。

2回接種でしっかりと抗体をつけよう

おたふく風邪ワクチンは、2回接種が推奨されています。日本小児科学会では、1歳で1回目の接種、小学校入学前の1年間の時期(5~6歳)に2回目の接種をすることを推奨しています。接種するワクチンの種類などによって異なりますが、1回接種で約7割以上、2回接種では約9割前後、免疫を獲得すると言われています。

ワクチンの費用

ワクチンの費用は、医療機関によって異なりますが、1回4,000円~6,000円程度です。自治体によっては、接種費用を助成してくれるところもあるので、お住いの地方自治体に問い合わせてみましょう。

おたふく風邪にかかったかどうかが分からない場合には?

過去におたふく風邪にかかった経験があれば、身体の中に免疫が出来ているのでうつる可能性が低いと思って良いと思います。しかし、かかったかどうかはっきりしない場合や、予防接種を打ったかどうか分からない場合は、予防接種を受ける事をおすすめします。過去に感染した人がワクチンを接種しても問題はありません。血液を採取して、ムンプスウイルスに対する抗体の有無を調べる抗体検査もありますが、自費診療となります。

おたふく風邪のワクチンは1981年から始まっているので、それ以前に小児期を過ぎている40代以降の方は予防接種を打っていない可能性があります。一方で、1989年〜1993年までの4年間は日本でも麻しん・おたふく風邪・風しん混合(MMR)ワクチンとして定期接種が可能だったので、30歳前後の方は予防接種を受けている可能性が高くあります。確認してみましょう。

積極的に予防接種を

繰り返しになりますが、「任意接種=必要ではない予防接種」ではありません。おたふく風邪に限らず、病気にかかって免疫をつけるという考えは危険です。将来、後悔することのないように、ワクチンの接種で大切な家族と自分を守りましょう。

福岡 かほる(ふくおか・かほる)先生

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東京都立小児総合医療センター 感染症科・免疫科

【プロフィール】
小児科医。2010年徳島大学医学部卒。香川小児病院にて初期研修、熊本赤十字病院小児科・熊本市立熊本市民病院 新生児内科にて後期研修を経て、2015年より現職。 2018年より感染症科医員、2019年より診療科責任者を務める。 専門は小児感染症・感染制御。小児科専門医・日本小児感染症学会認定暫定指導医。

著者プロフィール

■森下千佳(もりした・ちか)
フリーエディター。お茶の水女子大学理学部卒。テレビ局に入社し、報道部記者として事件・事故を取材。女性ならではの目線で、取材先の言葉や見過ごされがちな出来事を引き出す事を得意とする。退社後、ニューヨークに移住。当時、日本ではなかなか手に入らなかったオーガニック商品を日本に届けるベンチャー企業の立ち上げに関わる。帰国後、子宮頸がん検診の啓発活動を手がける一般社団法人の理事を経て現職。一児の母。

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