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2024.06.15

睡眠不足で筋力低下。筋トレ効果を最大化する睡眠の仕組み

kencom公式ライター:藤野紗衣

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筋力アップのためにトレーニングをしたり、プロテインを飲む方は多いでしょう。でも、もうひとつ、大切な要素である、睡眠は十分取れていますか。良質な睡眠と、十分な睡眠時間を取ることは筋力増強に不可欠です。

今回お話を伺ったのは、早稲田大学教授で精神科医の西多昌規先生です。睡眠が筋肉にどんな影響を与えているのか、また正しい睡眠との向き合い方を解説していただきました。

西多昌規(にしだ・まさき)先生

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早稲田大学教授 精神科医
東京医科歯科大学卒業。自治医科大学講師、ハーバード大学客員研究員、スタンフォード大学客員講師などを経て、早稲田大学スポーツ科学学術院教授、早稲田大学睡眠研究所所長。精神科専門医、睡眠医療総合専門医などをもつ。専門は睡眠、アスリートのメンタル・睡眠サポート。睡眠障害、発達障害の治療も行う。著書に『休む技術2』(大和書房)『眠っている間に体の中で何が起こっているのか』(草思社)など。

筋トレをするなら、良質な睡眠が欠かせない理由

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近年、健康のために筋トレを習慣化する人が増えています。成人の身体の3〜4割は筋肉なのですが、筋肉量は生後30年以内にピークに達し、その後は減少していきます。65歳以上になるとさらに減少率が高くなり、加齢による心身の衰えとともにフレイルになりやすくなり、生活の自立が妨げられ、やがて介護が必要になってしまうのです。

健康寿命を伸ばすため、厚生労働省の『健康づくりのための身体活動・運動ガイド』でも筋トレの習慣化を推奨しており、今後も筋トレの需要は高まっていくことが予想されます。

筋力アップにはトレーニングやプロテインだけでは足りない

健康維持のために必要な筋肉ですが、どのように育まれているかご存知でしょうか。ここでは、筋肉の維持成長には、良質な睡眠が欠かせない要素であることを解説します。

筋トレなどの運動をすると筋繊維がダメージを受け、筋肉の組織が破壊されます。しかしその破壊は一時的なもの。その後、栄養や休息を経て徐々に回復し、破壊前よりも強い筋肉が形成されます。部位によって異なりますが、この休息は2〜3日を要します。この期間には栄養と休息が必要で、効果的な休息として睡眠があります。

睡眠のゴールデンタイムで筋力アップ

睡眠の前半は、睡眠のゴールデンタイムと呼ばれています。それは、その時間帯に成長や新陳代謝にとって必要な成長ホルモン分泌がピークを迎えるため。さらに、深いノンレム睡眠が始まった数分後に成長ホルモンの最大のピークが訪れます。このときこそが、筋肉を分解するホルモンであるコルチゾルの分泌は最も低くなり、筋力増強のタイミングです。

また、筋肉増強ホルモンで知られるテストステロンは、睡眠前半のノンレム睡眠の長さと関係して分泌が増加すると考えられています。テストステロンの分泌は入眠開始後に始まり、睡眠の後半である早朝に最大に達します。そのため、筋肉の増強、すなわち筋トレの効果を十分に出すには、良質な睡眠と十分な睡眠時間が必要なのです。

徹夜は筋肉を減らす!?

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睡眠不足が続くことで、筋肉量が減少するというシカゴ大学の研究データがあります(※1)。5.5時間と8.5時間の睡眠を14日間続けた時、睡眠時間が短い5.5時間のグループは、筋肉量の減少が60%も多いことがわかりました。さらに、徹夜するとますます分解速度が飛躍的に増加することも、多くの研究からわかっています。

これは、成長ホルモンやその働きを助ける物質が回復を妨げたり、慢性炎症を活発にさせて筋肉にダメージを与えるためです。また、睡眠不足だとストレスホルモンが過剰に分泌され、筋肉の分解が進みます。睡眠不足のときだけでなく、睡眠が浅い(深い睡眠が取れていない)ときも筋肉は分解されてしまうのです。

睡眠中に骨も生まれ変わる

筋肉だけではなく、骨も睡眠中に生まれ変わっています。良質な睡眠は骨も強くしてくれます。しかし、筋肉と違って骨の強さは目に見えないので、ピンとこない方も多いかもしれません。

また、間接的にではありますが骨も筋肉と同じように睡眠の影響を受けます。骨粗鬆症の重症度にも影響があるともいわれていますから、良質な睡眠を取るよう心がけてください。

あなたの健康にとって睡眠がいかに大切か知るために

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人生の中で、眠っている時間は決して無駄な時間ではありません。近年は睡眠が重要だという知識は少しずつ広まってきましたが、それでも日本人の睡眠時間は欧米と比較するとまだ短いままです。インターネットや書籍で情報を調べれば

・ベッドでスマホを見てはいけない
・夜はお風呂につかろう
・日中は光を浴びよう

といった快眠のコツがあふれています。しかし、頭ではわかっていても、なかなか実行できないのが実際のところです。日本人は睡眠よりも仕事や趣味を優先させてしまう傾向が強いからかもしれません。

西多先生の著書『眠っている間に体の中で何が起こっているのか』では、睡眠法ではなく、睡眠が体に与える影響を解説しています。これは、睡眠不足が長期的に体にどんな悪影響を及ぼすか知っているからこその本。睡眠の重要性と睡眠不足が引き起こす悪影響を理解すれば、生活を変える気持ちになり、健康のために「夜はきちんと寝よう」と考え直す人が増えれば、という先生の思いが込められています。

◼️今回のお話を伺った西多昌規先生の著書

『眠っている間に体の中で何が起こっているのか』(草思社)

『眠っている間に体の中で何が起こっているのか』(草思社)

記事情報

著者プロフィール

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藤野紗衣(ふじの・さえ)
ライター
東北大学薬学部卒業後、ドラッグストアや精神科病院、一般病院に薬剤師として勤務。現在はライターとして独立。医療関連のコラムや解説記事制作、取材記事の制作に関わる。専門知識を一般の方にわかりやすく伝える記事、薬剤師をはじめ働く人を支える記事を書いている。

制作

監修:西多昌規
取材・文:藤野紗衣

引用・参考文献

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