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2024.05.10

食事制限がドカ食いを招く?運動と食事制限が食欲に与える影響【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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食べたいものを我慢するダイエットは、空腹を堪えられずにドカ食いして失敗することも多いもの。

今回ご紹介するのは、Official Journal of the American College of Sports Medicine誌に、2016年に掲載された、食事制限と運動が食欲に与える影響についての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

運動すると食欲が抑えられるって本当?

少し古いものですが、このテーマにおいて興味深い知見なので、ご紹介をさせて頂きます。

ダイエットのために食事制限と運動を行ったら、運動の後で無性に食欲が亢進して、ドカ食いをしてしまって失敗した、というような体験談が良く聞かれます。運動はカロリーを消費することですから、運動の後には食欲が増すのはおかしなことではありません。その一方で激しい運動の後は、精神は高揚していて心地良い疲労感がありますが、そうした時にはあまり食欲が沸かないものだと思います。一般論で言って、運動をしっかり習慣としている人は、食事制限を意図的にしなくても、太ることはあまりないと思います。

この事実は、運動すること自体が、食欲を適度に調整して、過不足のない身体の状態を維持している、という可能性を想像させます。実際にそれは事実であるのでしょうか?

食事制限と運動が食欲に与える影響を調査

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今回の論文はそのテーマを主に女性を対象として検証しているものです。その理由はこうした研究はこれまで、専ら男性の被験者で施行されることが多かったからだ、と説明されています。また、女性は食欲が亢進しやすいとの、あまり根拠のない言説が多いことも指摘されています。

研究ではまず、12 人の女性に9時間自由に生活した場合と、90分のランニングをした場合、食事を1食240キロカロリー程度に制限した場合の、3種類のパターンを1週間の間隔で繰り返してもらい、時間内には自由に間食も摂ってもらって、運動と食事制限が、その後の食欲と摂食に与える影響を検証しています。更に2つ目の研究としては、10人の男性と10人の女性を対象として、運動の食欲と摂食に与える影響を、同様に検証しています。

その結果、食事制限を行うと、食欲増進のホルモンであるグレリンの血液濃度は上昇し、被験者は空腹感を感じて食欲が亢進、結果として間食の量が増加します。その一方で運動により、食事制限と同等のエネルギー消費があっても、グレリンの濃度の上昇はあまり認められず、食事制限に見られたような、食欲の亢進や過食の傾向も認められませんでした。

第二の実験で男女に分けて同様の検証を行っても、運動の食欲抑制効果には、明確な性差は認められませんでした。要するに運動(この場合最大酸素摂取量の70%程度)を施行して、エネルギーが消費されても、食欲の増進は起こらない一方で、同じカロリーを食事制限で抑制すると、強い空腹感と食欲が生じて、結果としてカロリー過多の状態になり易い、という結果です。

食事制限すると逆に食欲が増すことに注意

ここで最初の疑問に戻りますが、ダイエットで運動をするとその後にドカ食いをし易いのは、元々過度な食事制限を施行している状態なので、運動後の食欲亢進が起こり易く、問題は運動ではなく食事制限の方にある、と考えるのが妥当であるようです。

体重のコントロールには、確かに運動と食事制限が両輪ですが、食事制限は確実に食欲の亢進をもたらすので、それをどうコントロールするかがポイントで、食事制限でフラフラの状態で運動することは、食欲の亢進に輪をかける可能性が高い、という点はしっかりおさえておく必要がありそうです。

記事情報

引用・参考文献

著者/監修医プロフィール

石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。

略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医

発表論文
・Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
・Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
・Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36
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