メニュー

2024.02.25

今、薬不足が深刻。なぜ医薬品が足りないのか、私たちにできることは?【おくすりコラム】

kencom公式:薬剤師ライター・高垣 育

Adobe Stock

Adobe Stock

インフルエンザなどの感染症が流行するシーズンですが、少し前から医薬品の不足が続き、必要な薬が入手できない事態が発生していることをご存知でしょうか。体調不良に陥ったときに、薬が手に入らないという場合もあるのです。

薬局では、処方された薬がそろわなったり、使い慣れている薬とは別のメーカーの薬を選ばざるを得なかったりということがしばしば発生しています。

医薬品不足はなぜ起こり、現状はどうなっているのか。加えていざという時のためにご自身でできる備えについて、薬剤師の視点からご紹介します。

なぜ、医薬品は不足しているのか?

医薬品不足について調査した厚生労働省の資料によると(※1)、2023年10月の時点で、限定出荷あるいは供給停止となっている医薬品は、全体の24%に上ります。なぜ、このような事態になってしまっているのでしょうか。

医薬品不足を招いた3つの原因

Adobe Stock

Adobe Stock

日本で医薬品が不足しているのは、複合的な要因です。急に起こった事態ではなく、2021年から現在まで続いています。

ジェネリック医薬品メーカーの不正による製造中止

2020年の年末、ジェネリック医薬品メーカーが薬機法に違反していることが発覚し、業務停止処分を受けます。この事件発覚後、別の医薬品メーカーでも行政処分が相次ぎ、2022年8月末には、ジェネリック医薬品の約4割が出荷停止、あるいは限定出荷を余儀なくされました(※2)。

現在、ジェネリック医薬品は、国内で使われる医薬品の約8割ほど。このような状況下で生産能力が低下したことで、医薬品全体に大きな影響を与えているのです。

感染症の流行による原材料不足や輸送の滞り

医薬品は、輸入に頼っているものも多く存在します。新型コロナウイルスの流行によって、海外からの輸入の経路が途絶えたり、ロックダウンで原材料が入手できず、製造が滞るなど、様々な要因が重なって医薬品の不足につながりました。

もちろん、感染症の流行による医薬品の需要急増も一因です。咳止めや痰を切る薬、鎮痛解熱剤は、現在も在庫が逼迫し、深刻な状況が続いています。

世界情勢の不安定などによる原油高の影響

2022年2月に始まったロシアの軍事侵攻から、原油が高騰あるいは不足するなど、エネルギー供給の問題も、医薬品の輸送や製造に大きな影響を及ぼしています。

また、円安の影響で製造コストが割高になっていることも、医薬品の不足に拍車をかけていると言えるでしょう。前提として、日本の医療は国民皆保険制度で、国民全員が公的に補償される仕組みです。そのため、国が薬価を決めており、原価の高騰を薬の価格に反映することが難しいのです。メーカーによっては採算が合わなくなるケースも生じていることも、製造控えのひとつの要因といえるでしょう。

医薬品不足の現状を知り、自分たちでも備えをしておこう

Adobe Stock

Adobe Stock

医薬品不足が続く事態を受け、政府は医薬品製造販売企業へ増産を依頼したり、医療機関に対しては長期処方を控え、最小日数での処方をするよう求めるなどの対応を進めています。ただ、医薬品不足を招いた原因は継続しており、改善の兆しはまだ見えていません。

この状況では、もし体調不良に陥って病院へ行き処方箋をもらっても、調剤薬局で薬が手に入らない可能性があります。もしもの場合に備えて、私たちができることはあるのでしょうか。

病気を防ぐ生活習慣を

まず、薬を使う状況にならないように健康の維持に努めることです。

たとえば感染症対策なら、インフルエンザにかからないように手洗いや手指消毒を行う、乾燥しやすい室内では湿度を適切に保つ(50~60%)、栄養と睡眠をできるだけしっかりとるなどの対策が挙げられます。これらは基本中の基本ですが、ほかの感染症にも有効です。

また、免疫を高める食事を摂ったり、風邪にかかりづらい身体を作るための運動を習慣づけておいたりするとよいでしょう。

市販薬を常備しよう

あなたのご自宅には、救急箱はありますか。中には、何が入っていますか。使用期限は切れていませんか。

急な発熱や咳などに備えて、普段から市販薬を準備しておくのもおすすめです。感染症の流行状況によっては、品薄になる市販薬もありますし、薬剤師がいないと購入できない医薬品もあり、市販薬もすぐに手に入るとは限りません。

どんなに気をつけていても、残念ながら病気を避けられない時もあります。自分、そして家族がよくかかる病気や症状に対応した市販薬を買い揃えておくことは、セルフケアの初めの一歩と言えるかもしれません。

いつもの薬がすぐ手に入るとは限らない

医薬品不足がいつ解消するのか、まだ目途は立っていません。自分にできることに取り組んで、もしもの時にも対処できるよう最善を尽くしましょう。

記事情報

引用・参考文献

著者プロフィール

高垣 育(たかがき・いく)
2001年薬剤師免許を取得。調剤薬局、医療専門広告代理店などの勤務を経て、12年にフリーランスライターとして独立。薬剤師とライターのパラレルキャリアを続けている。15年に愛犬のゴールデンレトリバーの介護体験をもとに書いた実用書『犬の介護に役立つ本(山と渓谷社)』を出版。人だけではなく動物の医療、介護、健康に関わる取材・ライティングも行い、さまざまな媒体に寄稿している。17年には国際中医専門員(国際中医師)の認定を受け、漢方への造詣も深い。

制作

文:高垣育

あわせて読みたい

この記事に関連するキーワード