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2022.10.24

薬の管理、できていますか?服用数が増えてきたら気をつけたい2つのこと

kencom公式:薬剤師ライター 高垣 育

©︎YOJI IMAI

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毎日服用するたくさんの薬を目の前にして、こんなに薬を飲んでいて問題はないのか、と思うことはありませんか。今回は今深刻化しているポリファーマシーの問題について考えていきます。

"ポリファーマシー"という言葉を知っていますか?

ポリファーマシーとは

「多く」を意味するpoly
「薬局、調剤」を意味するpharmacy

からなる言葉。一般的にはまだ認知度が高くありませんので、あまり聞いたことがなく、耳慣れないという方も多いでしょう。

厚生労働省の資料によると、ポリファーマシーとはただ単に多くの薬を飲んでいる「多剤併用」の状態を指すのでありません。たくさんの薬を飲んでいることによって、薬による有害事象のリスクが高まったり、きちんと薬を飲むことができない、あるいは飲み間違えたりするといった問題につながる状態のことをポリファーマシーといいます。

一方で、ポリファーマシーのことをニュースなどで見聞きして「知っている!」という方の中には、「ポリファーマシーは高齢者の問題でしょう?まだ、自分には関係ない」と思っている方もいるかもしれません。ところが、ポリファーマシーは高齢者だけの問題ではなく、複数の薬を飲んでいる方なら誰にでも起こりうる問題です。

・健康診断で病気が見つかり、薬を服用している
・年齢とともに通院する機会が増え、薬の種類や量も増えてきた
・高齢の両親がたくさんの薬を服用している

という方は、ぜひこの記事を読んで、自分や家族と薬の上手な付き合い方について、考えてみてください。

なぜ薬をたくさん飲むとよくないのか?

たくさんの種類の薬を飲むことには、大きく2つの問題があります。

問題1:薬と薬の相性が悪い

©︎YOJI IMAI

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1つ目は薬同士の相性の問題です。複数の薬を飲むと、薬同士が影響しあって効きすぎたり、効かなかったり、あるいは副作用が出やすくなることがあります。

たとえば、内科で鉄剤を継続して飲んでいる方に、感染症のために臨時でテトラサイクリン系という種類の抗生物質が処方されたとします。鉄剤と抗生物質を一緒に飲むと、抗生物質の吸収が悪くなってしまうことが知られています。せっかく感染症を治療するために薬を飲んでいるのに、効果が弱くなったら困ってしまいます。

また、普段腰痛の治療のために整形外科で痛み止めの飲み薬を飲んでいる方が、頭痛で、市販の別の成分の痛み止めを自己判断で頓服(※)したとします。すると、胃の調子が悪くなることがあります。NSAIDsという種類に分類される痛み止めは、胃に負担をかけるためです。

このように、複数の薬を飲むと薬同士の飲み合わせによっては、体にとって好ましくない影響が及ぶことがあります。特に、高齢の方では使っている薬が6種類以上になると副作用を起こす人が増えるというデータがあるので注意が必要です。

※頓服(とんぷく)食後など決まった時間ではなく、発作時や症状のひどいときなどに薬を飲むこと

問題2:飲み忘れや飲み間違いが発生する

2つ目は、飲み間違いや飲み忘れが出てきてしまうという問題です。例えば、次のようなケースがあります。

1日の中で薬を飲むタイミングが複数回ある場合

©︎YOJI IMAI

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薬には、

・毎食後
・毎食直前
・空腹時
・就寝前

など、それぞれの薬によって飲むタイミングが定められています。

例えば、朝食後の薬だけでしたら、朝食のときに薬をそろえておけば、飲み忘れないように管理ができるでしょう。

ところが、薬を1日に何回も飲む必要があると、昼食後の薬をうっかり会社に持ってくるのを忘れてしまったり、毎食直前の薬を飲まずに食事をはじめてしまったりするかもしれません。また、どの薬を、いつ、何錠飲むのかが分からなくなって、用量を間違えるという問題も出てきます。

似たような薬が複数ある場合

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たくさんの薬をもらっていると、粒そのものの見た目(色や形)や、シートのデザインが似ている薬が処方されることがあります。薬やパッケージが似通っているため、うっかり誤ってしまう可能性があります。

例えば以下の例を考えてみましょう。

・薬A:白い錠剤、赤い色のシートに入っている。朝食後に1粒飲む
・薬B:白い錠剤、オレンジ色のシートに入っている。夕食後に2粒飲む

上記の場合、錠剤の色やパッケージの色が似ていますが、飲むタイミングが違います。薬Aを飲むべき朝食後に間違えて、薬Bを飲んでしまう可能性があるのです。

ポリファーマシーを防ぐ方法は?

©︎YOJI IMAI

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ポリファーマシーによる体への好ましくない影響を防ぐには、お薬手帳を活用することが大切です。

複数の医療機関を受診している人はもちろんですが、先述したように市販薬と病院から処方された薬でも相性が悪いことがあります。

自分が飲んでいる薬の記録はすべて記載して、医師や薬剤師に見せることができるようにしておきましょう。そうすれば、お薬を飲む前に飲み合わせや、薬の重複などをチェックしてもらえます。

また、飲み忘れが多い、飲み方が分からなくなるといった問題で困っている場合は、薬剤師に相談してみてください。複数の薬を1回飲む分ごとにひとまとめにしたり、おくすりカレンダーというアイテムを使って、日付ごとに飲む分の薬を分けたりするなど、その方が飲みやすいように工夫をして薬を出してくれます。

薬は体調が悪いときに症状を和らげてくれる心強い味方となりますが、一方で、使い方や飲み方を誤ると、体に思わぬ影響をおよぼすことがあります。安全に、そして安心して薬を使うためには、お薬手帳を活用したり、身近な薬局の薬剤師に相談したりして、自分と、大切な家族の健康を守っていきましょう。

▼参考文献

著者プロフィール

■高垣 育(たかがき いく)
2001年薬剤師免許を取得。調剤薬局、医療専門広告代理店などの勤務を経て、12年にフリーランスライターとして独立。薬剤師とライターのパラレルキャリアを続けている。15年に愛犬のゴールデンレトリバーの介護体験をもとに書いた実用書『犬の介護に役立つ本(山と渓谷社)』を出版。人だけではなく動物の医療、介護、健康に関わる取材・ライティングも行い、さまざまな媒体に寄稿している。17年には国際中医専門員(国際中医師)の認定を受け、漢方への造詣も深い。

(イラスト:今井ヨージ

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