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2024.01.15

痛み止めのアスピリンが腹部大動脈瘤の進行を抑えてくれる?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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アスピリンは解熱鎮痛薬として有名ですが、それ以外にも病気の進行を抑える効果を持ち合わせているようです。

今回ご紹介するのは、JAMA Network Open誌に2023年12月12日付で掲載された、腹部大動脈瘤に対するアスピリンの有効性についての論文です。

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高齢者だと手術しにくい腹部大動脈瘤

腹部大動脈瘤は高齢者に多い大動脈疾患で、その名の通りお腹の大動脈が、瘤のように腫れるという病気です。

上記文献の記載によれば、先進国では65から85歳の年齢の死因の1.3%に関連し、ガイドラインでは、概ねその径が5.5センチ以上となった場合や、年間5ミリ以上と急速な増大傾向のある時には、破裂のリスクが高いことから、手術治療の適応とされています。

ただ、この病気は内臓機能の低下した高齢者に多く、他の病気も併発していることが多いので、手術のリスクも決して低いものではありません。

従って、その進行のリスクを減らし、致死的となる可能性が高い動脈瘤の破裂を、予防するための保存的な治療の必要性が高いのです。

現在有効な予防法はない

しかし、現時点で血圧のコントロールや禁煙以外に、有効な進行予防の方法は確立されていません。

これまでに多くの薬剤の、腹部大動脈瘤進行予防効果が検証されていますが、殆どの臨床試験においてその有効性は確認されていません。唯一糖尿病治療薬のメトホルミンに、一定の有効性が確認されていますが、まだ確実と言えるものではありません。

血小板の活性化が、大動脈瘤の増大に影響しているという基礎データがあり、抗血小板作用のある低用量のアスピリンに、動物実験のレベルでは、腹部大動脈瘤の進行予防効果が確認されています。しかし、実際の臨床において、アスピリンの使用に、そうした効果があるかどうかは明確ではありません。

アスピリンが大動脈瘤の進行を抑制するか検証

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そこで今回の研究では、アメリカの単独施設において、超音波検査で3センチ以上の径の腹部大動脈瘤を持つ、3435名の患者を、10年間フォローしたデータを活用して、アスピリンの使用と大動脈瘤の進行との関連を比較検証しています。

その結果、アスピリン使用群の、アスピリン非使用群では3.8±4.2mmで、アスピリンの使用は大動脈瘤の増大を、有意に抑制していました。

また、アスピリンの使用は、大動脈径が年間5mmを超えて増大することで定義される、大動脈瘤の急速進行のリスクを、36%(95%CI:0.49から0.89)有意に低下させていました。

一方で総死亡のリスクや出血のリスクについては、両群で明確な差は認められませんでした。

一定の有効性がありそう

このように、今回のデータにおいては、アスピリンの使用による腹部大動脈瘤進行予防に、一定の有効性が確認されました。その一方で生命予後の改善については、確認することは出来ませんでした。

今後より精度の高い介入試験などによって、アスピリンの有効性が検証されることを期待したいと思います。

記事情報

引用・参考文献

著者/監修医プロフィール

石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。

略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医

発表論文
・Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
・Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
・Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36
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