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2020.04.10

新型コロナウイルスに感染すると嗅覚障害が起きるメカニズム【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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においや味を感じないという異変で、新型コロナウイルスの感染に気付いた方のニュースをよく耳にします。
嗅覚障害や味覚障害と、新型コロナウイルスにはどのような関係があるのでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、これは2020年3月27日にmedRxivに掲載された査読前の論文です。
medRxivというのはまだ査読前の論文を保存しているサイトで、今回のものはその重要性から、その時点で公開されているものです。

▼石原先生のブログはこちら

新型コロナウイルスに感染すると嗅覚障害が起きる?

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最近新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の症状として、注目されているのが嗅覚障害と味覚障害です。

新型コロナウイルスに感染すると、通常の気道感染症状に加えて、臭いを感じなくなったり、味を感じなくなったりするような症状が認められ、それは他に症状のない不顕性感染でも、認められることがしばしばあることが、最近世界中で報告されています。

日本でも野球選手にそうした症状が出たことが、話題になりましたね。

この件についてはまだあまりまとまった研究のようなものは、発表されていないようなのですが、内容がまとまっていてしばしば引用されているのが、英国耳鼻咽喉科学会(ENTUK)が出したステートメントです。
それがこちら。

これによると、ドイツでは新型コロナウイルス感染症と診断された患者さんのうち、3分の2以上に嗅覚障害が認められたと報告されています。
非常に多くのPCR検査を施行している韓国では、検査が陽性の患者の3割に嗅覚障害が認められ、軽症の事例では唯一の症状であったとされています。(後に15%に訂正されているようです。論文化はされていません)

嗅覚障害が起きるのは嗅上皮周辺に感染が起きるから

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ウイルス感染などの後に嗅覚障害が生じること自体は、以前から良く知られている知見です。
嗅覚障害の40%以上はウイルス感染後の嗅覚障害である、という推計もあります。

ただ、そうした過去の事例と比較しても、今回の新型コロナウイルス感染症における嗅覚障害の頻度は異常に高く、他の症状が認められない事例で、嗅覚障害のみが認められることが多い、という特異性があります。

一体何故こうした現象が起こるのでしょうか?

その疑問を検証しているのが上記の論文です。

ここではこれまでの嗅上皮や呼吸上皮といった、鼻腔の細胞の遺伝子データを解析することで、新型コロナウイルスの感染に必要な、ACE2とセリンプロテアーゼ(TMPRSS2)の発現が、嗅覚に関わる上皮細胞に認められるかどうかを検証しています。

その結果、嗅神経とその関連する上皮細胞には、ウイルス感染に必要な遺伝子の発現は認められない一方で、呼吸上皮と嗅上皮の支持細胞や幹細胞には、遺伝子発現が認められることが明らかになりました。

つまり、直接嗅上皮の周辺にウイルスの感染が起こり、それが嗅覚障害の原因となる可能性が、示唆された、というデータです。

味覚障害についての明確な検証はなし

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この問題はまだまだ不明の点が多く、今回の新型コロナウイルス感染症に嗅覚障害が高頻度で認められることは、ほぼ事実と言って良い反面、その意味合いやメカニズムについては、殆ど分かっていない、というのが実際であるようです。

また、嗅覚障害と味覚障害が、並列してメディアの記事になっていることが多いのですが、今回調べた範囲で、味覚障害については殆ど明確な検証がありませんでした。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36