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2023.12.11

無症状の心房細動に抗凝固療法は有効?【kencom監修位・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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心房細動は脳梗塞を発症させることがあり、治療や服薬が必要な不整脈です。

今回ご紹介するのは、the New England Journal of Medicine誌に、2023年11月12日付で掲載された、潜在性の心房細動に対する抗凝固剤の有効性についての論文です。(※1)

▼石原先生のブログはこちら

脳梗塞のリスクが増す心房細動

心房細動という不整脈は、心臓内の血液の滞りにより血の塊ができて、それが脳にとんで脳梗塞(脳塞栓)を起こす原因となります。心房細動になることにより、4から5倍脳梗塞の危険性が増すと考えられています。その予防のために、通常血液を固まりにくくするような薬が使用されます。

心房細動患者さんの脳梗塞予防として、最もその有効性が確認されているのは、ワルファリンと直接作用型経口抗凝固剤と呼ばれる薬剤で、いずれも脳梗塞の発症を6割以上予防する効果が確認されています。

ただ、この場合の心房細動というのは、慢性心房細動の状態であるか、動悸などの症状があって、その時に心房細動が確認されているようなケースの場合です。

実際にはそれ以外に、全く無症状であるのに、時々短期間の心房細動の発作を起こしている、というようなケースがあり、それを潜在性心房細動と呼ぶことがあります。

近年ウェアラブル端末などの進歩により、簡単に不整脈の有無をチェック出来るようになり、以前よりも潜在性心房細動が見つかることが増えています。

問題はこうした無症状で、しかも短時間の心房細動の発作に対して、抗凝固療法を行うべきか、ということです。潜在性の心房細動であっても、それがない場合と比較すると、脳梗塞のリスクは2.5倍に高まるという、高齢者を対象としたデータがあります。(※2)

これが事実とすれば、潜在性心房細動の患者さんに対しても、抗凝固剤による脳梗塞予防の治療を行うことで、その予防に繋がる可能性が予測されます。ただ、実際にはこれまで、潜在性心房細動に対する抗凝固剤の予防効果は、あまり明確になっていません。

脈拍のモニタリングで検証

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そこで今回の研究では、ヨーロッパと北アメリカの複数の専門施設において、脈拍の継続的なモニタリングにより、全くの無症状で、1回の持続が6分を超え24時間以内の心房細動を確認された、年齢は55歳以上の4012名の患者を、本人にも主治医にも分からないように、くじ引きで2つの群に分けると、一方は抗凝固剤のアピキサバンを使用し、もう一方は1日81㎎のアスピリンのみを使用して、その予後を平均で3.5年観察しています。

対象者の平均年齢は76.8歳で、CHA2DS2-VASCという国際的スコアで判定された脳梗塞リスクは、平均3.9点と算出されています。これは高血圧や年齢、脳梗塞の既往などを元に、脳梗塞のリスクを数値化するもので、数値が高いほどそのリスクが高いことを示しています。ガイドラインによっても違いはありますが、このスコアが1点以上の心房細動の患者さんには、抗凝固療法が推奨されています。

試験の結果観察期間中に、アピキサバン使用群の55名と、アスピリン使用群の86名が脳梗塞を発症し、アピキサバンの使用はアスピリンと比較して、脳梗塞のリスクを37%(95%CI:0.45から0.88)有意に低下させていました。

一方で抗凝固剤の有害事象である、消化管出血などの重症の出血のリスクは、アピキサバン群で1年当たり1.71%という頻度で認められました。これはアスピリンと比較して、1.80倍(95%CI:1.26から2.57)の有意な増加を示していました。

このように、アピキサバンを使用することにより、アスピリンの使用と比較して、潜在性心房細動においても、脳梗塞のリスクが低下することが確認されました。

ただ、慢性心房細動の患者さんと比較すると、脳梗塞の発症頻度自体がかなり低いので、その効果が出血などの有害事象のリスクを凌駕しているかどうか、という観点で考えると、やや微妙なところはあります。

潜在性心房細動に適応した治療法に期待

今後たとえば予測スコアで脳梗塞のリスクを判定して使用するなど、より対象を絞った検証も行われることにより、患者さんに真にメリットのある治療が、潜在性心房細動の患者さんにおいても、確立されることを期待したいと思います。

記事情報

引用・参考文献

著者/監修医プロフィール

石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。

略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医

発表論文
・Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
・Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
・Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36
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